
SRIは光回路を活用してレーザー光の発信源を特定することで、軍民両方の分野においてレーザーの危険性の軽減を目指す
レーザーポインターを主にペットと遊ぶための民生用技術だと考えている人たちにとっては、レーザーが世界中でますます深刻な脅威となっているという事実は驚くべきことなのかもしれません。これは、現代のほぼ全ての軍隊が配備している兵器システムにて、レーザー距離計や目標指示装置が至る所で活用されるようになったというだけではありません。民間の空域においても、レーザー照射による被害がますます懸念されています。米国では近年、航空機に対してレーザーポインターが照射されることが確実に増加しています。最近発生したレーザー照射事件の一つは、米国大統領が搭乗するヘリコプター「マリーン・ワン」を標的としたものでした。このような照射事件の多くでは安価な市販のレーザーポインターが使用されていますが、パイロットの集中力をそぐだけでなく、暗視装置を使用している場合は特に視力に不可逆的な損傷を与えることもあるのです。米連邦航空局(FAA)の記録によると、レーザー照射による負傷者は2025年だけでも10人に上っています。
このような軍や民間におけるレーザー関連の脅威に共通する点が一つあります。このリスクを軽減するにはまず、問題となるレーザー光の発信源を特定しなければなりません。差し迫ったミサイル攻撃を戦闘員に事前警告する場合であれ、民間航空機へのレーザー照射に関する即座に活用可能な情報を法執行機関に提供する場合であれ、レーザーがどこから発射されているかを把握することが極めて重要です。
科学的な観点から見ると、遠く離れたレーザーの発射源の位置を正確に特定するシステムを構築することは極めて困難です。しかし、SRIの研究者たちは、一見すると不可能であるかようなこの問題解決にあたり、フォトニック集積回路(光集積回路)の応用に大きな可能性があると見ています。この研究は、国内の航空機運航会社に新たな機能を提供するだけでなく、軍用から民間までレーザー誘導兵器から様々な標的を防護できるような、新たなアプローチを示しているのです。
なぜ光集積回路でレーザー検知を向上させられるのだろうか
光集積回路は電子回路と同じように、素子を高密度に集積させて光子を効率的かつ効果的に流して情報を伝送したり、波形を解析したりすることができます。
米国防高等研究計画局(DARPA: Defense Advanced Research Projects Agency)のマイクロシステム技術室(MTO: Microsystems Technology Office)からの資金提供を得たSRIは、レーザーが使用される脅威を検知して、重要な情報を適時に提供できる能力の向上を目的とした、新しい光集積回路(PIC: Photonic Integrated Circuit )を開発しています。SRIは光回路を用いて照射されるレーザー光の入射角に関する情報を収集する新しい手法を開発しており、これによって小型かつ低消費電力のシステムで、このようなレーザー光の高度な分析や「指紋」となりうるような特徴を特定できるようになります。
「米国の沿岸警備隊であれ、英国の航空救急隊であれ、レーザーポインターの照射は人命救助任務の中止を余儀なくされる原因となり得ます」―Marcus Bagnell
SRIはDARPA MTOのSOAR(Steerable Optical Aperture Receivers、ステアラブル光学開口受信機)プログラムでPICを用いたレーザー検知技術の開発に着手しました。そして、このプログラムのチームを率いたSRI Applied Physics Laboratory(応用物理研究ラボ)のResearch ScientistであるCale Gentryは、通信用レーザーの標準波長である1550nmを中心とした30度の視野角内でレーザー信号を受信できるPICを設計しました。
この新たな取り組みの主目的は、PICの視野角を30度から120度に拡大して入射光を検出する能力を大幅に向上させることです。そのためには、新しいセンサーの各構成要素を改めて設計して試験を実施すること、そして実験室で実証するための準備が必要となります。SRIのResearch EngineerであるMarcus Bagnellは、「1ミリラジアンの角度分解能を目標としています。10キロメートルの距離であれば、レーザー光源の位置を10メートル以内の精度で特定できることになります」と述べています。
国防におけるレーザー検知
PICベースの軍事用途に適した検出器を設計するにあたり、この新しいプロジェクトでは、シリコンではなく窒化シリコンで構成されたPICを開発しています。窒化シリコンを用いるとPICの検知能力を1064nmの波長帯(軍用レーザー距離計や目標指示装置の大部分が使用する帯域)にまで拡張できるのですが、これはシリコンベースのPICではできなかったことなのです。
SRIのチームは長期的に、このようなPICをベースとした機能を実戦に投入できるような早期警戒システムとして構築することに大きな可能性を見出しています。照射されてくるレーザー距離計の発射源を検出できるだけでも、最前線の部隊にとって極めて大きなアドバンテージとなるでしょう。このチームは将来的に、特定の軍事兵器システムに関連するレーザーを(パルス情報やその他のデータを用いて)正確に特定できるプラットフォームの構築にこのPICベースのアプローチを活用できないかと考えています。このようなシステムによって、攻撃が差し迫っているときに命を守れるような情報を戦闘員(そして場合によっては戦闘エリアにいる民間人)に対して提供できるようになるのです。
民間の人々にとってもレーザー照射の検知が重要な理由
レーザーが民間航空機の運航者に及ぼす脅威は、集中力をそがれることや眼を損傷させられるリスクだけではありません。例えば、米国沿岸警備隊の飛行規則では、乗務員の眼にレーザーが照射された場合、航空機は任務を中止しなければならないと定められています。つまり、レーザー照射は進行中の人命救助を含む緊急対応を妨げる可能性があるのです。しかし、国内の航空機に対するレーザー照射が後を絶たない中、法執行機関にはこの状況を打開するための手段がほとんどありません。
米連邦航空局はパイロットや乗務員に対してレーザーが照射されたら、そのことを直ちに報告するよう求めており、その情報をFBIやその他の法執行機関に提供しています。しかし、目視による推定が不正確になるのは避けられないことから、捜査官がこの情報を基に本格的な捜査を行うことは事実上不可能であり、ましてや犯人を特定することなどはなおさら困難です。(「マリーン・ワン」へのレーザー照射事件では、米シークレットサービスの捜査官が地上で警備にあたっていたことから容疑者が特定されましたが、このように地上で取り締まれるのは極めて稀です。)もし、標的となった航空機にセンサーが直に搭載されていて、そのセンサーでこのようなレーザー照射の発射源をより正確に特定できれば、そのデータからパターンを把握して捜索範囲を絞り込むことができますし、さらにはその犯人を特定するのに十分な情報を法執行機関に提供することも可能になるかもしれません。
「米国の沿岸警備隊であれ、英国の航空救急隊であれ、レーザーポインターの照射は人命救助任務の中止を余儀なくされる原因となり得ます。このことだけでも、レーザー関連の脅威から航空機の運航者を守りたいと思う顧客から、この技術に大きな関心が寄せられるだろうと考えています」とBagnellは述べています。
SRIが防衛・セキュリティ分野でどのように貢献してきたか、詳細はこちらをご覧ください。
Distribution Statement A: Approved for public release, distribution unlimited. This research was, in part, funded by the U.S. Government. The views and conclusions contained in this document are those of the authors and should not be interpreted as representing the official policies, either expressed or implied, of the U.S. Government.
配布区分A:一般公開および無制限の配布が承認されています。本研究は、一部、米国政府の資金提供を受けて実施されました。このブログに記載された見解および結論は著者のものであり、米国政府の公式な方針(明示的か黙示的かを問わず)を反映するものと解釈されるべきではありません。


