
SRIの新型カメラは、数十年の長きにわたり主流であったアナログ低照度イメージングの優位性を覆そうとしている
1940年代後半に発明された画像増強管(image intensifier tubes)は、現在でも暗視カメラのゴールドスタンダードです。この技術は今日まで数十年をかけて、特に米軍によって継続的に改良されてきたおかげで、米軍の兵士たちは暗黒の夜でも安全かつ効果的に作戦を遂行できます。
では、その問題とは何でしょうか。画像増強管は真空管の技術をベースとしていることから、本質的にはアナログなものです。そのため、現在台頭している人工知能(AI)や物体を認識する技術に接続したり、デジタルの熱感知カメラと同期させたりすることが簡単にはできません。また、現在入手可能な最高品質の画像増強管は製造が難しい上に脆弱であり、しかも高価です。
そして、もう一つ、大きな制約があります。画像増強管は、低照度の条件下では非常に優れた性能を発揮しますが、明るい条件下ではあまり役に立ちません。突然、大量の光にさらされると画像増強管は簡単に機能が停止し、損傷することさえあります。
「DomiNiteは、現在のところ、現場で使用できる最も高感度なデジタル低照度イメージャーではないかと思います」―Colin Earle
SRIは米国防総省との協力のもと、2012年からアナログ暗視装置のデジタル代替品を研究していますが、この研究は最近DomiNiteカメラとして実を結び、配備する目途がたちました。DomiNiteは比較対象となる市販のアナログI2管よりも小型で頑丈であるため、これまでより、例えば降下した兵士が状況をより認識可能となり、地上車両の運転手の視界も良好になり、無人偵察機(ドローン)の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動に必要な能力も向上させることができます。一方、民生面では、警察や警備、自律航法、野外レクリエーションなどの分野で新たな性能が発揮されるように設計されています。
DomiNiteは何が違うのか
SRIのCenter for Advanced ImagingのディレクターであるColin Earleは、次のように述べています。「デジタル暗視カメラを持っているという人はたくさんいますし、その中にはかなり良い性能のものもあります。しかし、DomiNiteと同じ低照度に対する感度をもつカメラではありません」。
デジタルの低照度カメラが機能するのは、センサーの画素が一般的な昼用のカメラよりはるかに大きく、ノイズが極めて低いからです。光量が少ないときは、一つ一つの光子が重要です。このような光子を捕捉するようSRIが設計したのが、特許取得済みの「Quad Pixel」です。Earleは「これがDomiNiteシステムの心臓部です」と言います。Quad Pixelは、2つの異なるモードで作動するよう設計されています。高解像度モードは、「半月(quarter-moon)」ほどの明るさのときまで良好に作動します。これより暗くなったとき、例えば月の出ていない日や曇りの日には、自動的に高感度モードに切り替わり、良好な視界に必要となる信号をブーストさせます。

「このQuad Pixelテクノロジーのおかげで、DomiNiteは現在、現場で使用されているデジタル低照度イメージャーの中で最も感度が高いと思っています」とEarleは述べています。
DomiNiteは画像増強管を使用した暗視装置と比べると、非常に軽量かつ小型であることから、既存のプラットフォームに簡単に組み込むことができます。DomiNiteカメラの本体重量は14グラム(1/2オンス)より軽く、レンズ一体型カメラの体積は16.4立方センチメートル(1立方インチ)強なので、頭部に装着する用途に最適です。DomiNiteはまた、夜間の様々な条件下で極めて重要となる、高いダイナミックレンジを提供します。画像増強管とは異なり、明るい部分と暗い部分の鮮明な画像を同時に提供できるので、突発的な大量の光に対処不能になったり、損傷したりすることがありません。
DomiNiteの方向性
Center for Advanced Imagingのチームは、デジタル低照度イメージングの応用可能性を広げるため、DomiNiteのプラットフォームを強化する複数の方向性を追求しています。
このチームは、カメラのサイズ、重量、消費電力(SWaP)を縮小・低減する一方で、USB、PoE、Camera Linkなどのデジタルインターフェースを備えたさまざまな形態の光学機械を提供しています。また、双眼鏡や顕微鏡などに統合できるようリファレンスデザインも構築していることから、防衛関連企業や民生利用を目的とした顧客は、規模の大きなプラットフォームにもこのカメラをスムーズに組み込むことができます。
現在のところ、このカメラの標準バージョンはモノクロであるため、Earleは特にカラー化に期待を寄せているのですが、本人は「このプロジェクトの開始当初は、カラーで上手くいくとは思っていませんでした」と回顧しています。ですが、それは変わりつつあります。このチームは現在、各Quad Pixelに搭載された4つのレセプターのうちの1つに極小サイズのカラーパッチを蒸着させるプロトタイプ試験を実施しています。その結果はかなり良いもので、夜間の状況認識をこれまで以上に向上させると期待されています。
最終的に、AIはデジタルネイティブの情報を簡単にアルゴリズム処理へとつなげられるため、デジタルの低照度イメージングを次の段階に引き上げるテクノロジーになるのではないかとEarleは思っています。研究チームはDeepnightというスタートアップ企業と協力して、DomiNiteで撮影した動画をAIの信号処理アルゴリズムで処理してみました。すると、このアルゴリズムによって、暗い「星明り」の条件下で撮影された動画は、10倍ほど明るい「半月(quarter-moon)」の条件下で撮影された未処理の映像と同じくらい鮮明になったのです。
「AIが加わると、本当に大きく飛躍します。20世紀には、アナログの画像増強管が夜を支配していました。ですが、21世紀にはDomiNiteのようなデジタルの低照度センサーをAIで強化したものが闇夜を支配するものとなるでしょう」とEarleは述べています。
DomiNiteカメラの詳細については、DomiNite.sri.comをご覧ください。



