録音ができる繊維の開発を手がける

アクティブ繊維の活用方法の一端として紹介された装飾のある織物の例。写真提供:ノースカロライナ州立大学Daniel Weispfenning

圧電材料とリチウムイオン電池を糸状にして、音を記録する繊維を手がけるイノベーターたち


圧電材料はまさに驚異です。ねじったり、絞ったり、曲げたり、伸ばしたりすると電気が発生します。あなたがさっきガスコンロの着火ボタンを押した時に火花をおこして着火したのも、おそらく圧電気(圧電効果)のおかげです。

SRIのリサーチエンジニアで繊維に関する技術を専門とするMarcus BagnellとNicole Heidelは、IARPA(Intelligence Advanced Research Projects Activity、インテリジェンス高等研究計画活動)の契約のもと、ノースカロライナ州立大学と繊維メーカーのInternational Fabric Machines(IFM) の共同研究者を含めて構成される専門家のチームを率いており、マイクのように機能する繊維、つまり音声を録音できる繊維に圧電素材を組みいれることを目指しています。ここで重要となる要素は、昨年Nature誌に掲載された生地に織り込める圧電糸です。研究チームは、このセンサーとそれをサポートする電子機器をシームレスに統合し、既製の服に使用されているものとよく似た生地にしようと活動しています。

「音波が繊維に当たると、圧電糸が伸びてマイクの振動板のように電気信号が発生します。この時、繊維はドラムのように働き、音波が圧電糸を曲げて電子波形を作り出し、それを録音したり再生したりすることができるのです」。と主任研究員であるBagnellは述べています。

糸状に伸ばす

このプロジェクトは「Smart Electrically Powered and Networked Textile Systems (スマート電動繊維ネットワークシステム)」、略してSMART ePANTSと呼ばれており、最終的にはシャツやズボン、靴下や下着など衣服そのもので音を記録するようなものを作りたいと研究チームは考えています。IARPAは、このような衣服をプライマリー・ウェアと名付けました。

「圧電材料を細長い糸状に引き伸ばすことができるようにしたのです。私たちはこれをヤーン(糸)と呼んでいます。」とHeidelは説明してくれました。

「マイク、バッテリー、もしくは他の備品を糸のような構造にすることで、ボタンやスナップで縫い付けるのではなく、生地そのものに機能性を織り込むことを目指しています。」とBagnellは力強く述べてくれました。

圧電糸というと印象的に感じるのですが、そのマイク機能はSMART ePANTSシステムを構成する要素のひとつにすぎません。このチームはまた、システムへの電力供給やデータ保存、システムのオン・オフ、システムの作動通知に関しても、この糸のようなテクノロジーを開発し、統合していかなければなりません。これは同じような糸状のリチウムイオンバッテリーも必要であることを意味します。この衣料品にはメモリや制御装置、触覚通知システムも統合されますが、これらは糸のような形状ではなく、別の形になります。もちろん、必要なワイヤーや相互接続などもすべて、見た目も感触も自然な繊維にします。

無理難題に取り組む

最も困難な課題は、これらをすべて実用的なプロトタイプに織り込むことであり、これがSMART ePANTSの第一段階の目標です。

IARPAは多用途の衣料を想定しているため、この課題はさらに大きいものとなっています。そのため、完成した生地は繰り返し使用できるように、折り畳み可能かつ洗濯可能でなければなりません。

この点に関して、SRIと共同研究者たちは、すでに要素のいくつかをプロトタイプで実証しています。International Fabric Machines(IMF)は複雑な構成のマイク製造に関することや、それを糸に組み込むノウハウを有しています。そして、ノースカロライナ州立大学には医療や運動の用途に使用するアクティブ・スマート繊維の開発に関する専門知識があり、必要な要素をシームレスかつ目立たないように統合する衣服デザインと構成能力もあります。このチームには、ニューヨークのファッションデザイナー、Kenneth D. King氏も参加しており、衣服に関するインスピレーションについてもサポートしてくれています。SRIは、大局的なマインドセットと、完全なテクノロジー開発に必要な運営関連の機能を担っています。

この複雑な協力体制において、SRIはもうひとつ重要な役割を加えています。「SRIには、Speech Technology and Research(STAR)ラボという、信号処理やデータのインデックス作成・マイニング、コンピューター支援学習の専門家であるエンジニア、コンピューター科学者、言語学者からなる多くの学問領域にわたるグループがあります。」とBagnellは述べています。

「SRIのSTARラボのスタッフは、データ処理やストレージ、電力使用を最適化して、システムを可能な限り効率化しつつ、必要とされる音質を得ることに対して支援を提供してくれます。このチームがこのように集結できたことを非常に嬉しく思っています。IFMの要素を統合する能力、ノースカロライナ州立大学のスマートテキスタイルに関する専門知識、そしてファッションデザイナーであるKing氏の衣服デザインに関する経験を生かして、私たちは非常に高性能なシステムを着心地の良い衣服に統合することができると思っています。」とBagnellは述べています。


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