SRIの海底カイト(凧)システム「Manta」が、環境にやさしく信頼性の高い低コストの潮力発電を可能に


SRIの「Manta」システムが潮や河川の驚異的なパワーを制する


世界は「エネルギー」に依存しているのみならず、「エネルギーの飢餓状態」でもあります。省エネルギーも重要ですが、世界中で産業化が進むにつれ、近い将来にエネルギー需要が増加することは明らかです。太陽光発電、風力発電、波力発電はクリーンな再生可能エネルギーを供給することができますが、「潮の流れ」ほど信頼できるものはありません。

SRIインターナショナルは、世界のエネルギー需要を革新的な手段で充足する一助となるべく取り組んでいます。SRIは先日、米国エネルギー省のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E:Advanced Research Projects Agency-Energy)から、海底流体力学および河川キロメガワットシステム(SHARKS: Submarine Hydrokinetic And Riverine Kilo-megawatt Systems)プログラムの一環として、420万米ドルの研究費を提供されました。このSHARKSプログラムは、海洋の潮流や河川の流れによって発電し、コスト競争力のある流体力学的タービンの開発を支援するものです。

SRIはカリフォルニア大学バークレー校と共同でこの研究費を「Manta」コンセプトの改良とデモンストレーションに活用します。「Manta」のゴールはすべてのエネルギー源に対してコスト競争力を持ち、環境、地域社会、ビジネスに配慮した展開を行うことです。

Mantaの「海底カイト(凧)」システムは、地域社会が容易に維持可能で、人間の活動や野生生物の双方に安全でありつつ、既存のエネルギー供給構造を補完する柔軟で影響の少ないソリューションを提供することを目指しています。

経済的にも環境的にも優しいアプローチ

SRIの「Manta」システムは、大規模な潮流や河川のパワーを制するものです。SRIのPrincipal Research EngineerであるRoy Kornbluhは、「SHARKSプログラムの形成にあたり、ARPA-Eは潮力エネルギーは全く活用されていない資源であると認識したのです。世界中の海や川、入江には何テラワットにものぼる未活用のエネルギー源が眠っており、クリーンな再生可能エネルギーに変換されることを待っているのです」と述べています。

「Manta」は海底に設置したカイト(凧)で潮の流れの力を捕らえます。これは、風にのって空中にあがる凧とよく似ています。「Manta」という名前は海中を優雅に泳ぐ大型のエイ(マンタ)にちなんで名づけられました。Mantaの電力交換システムは、凧の揺れる動きとリールのポンプ作用を基本とするシンプルな作りです。堅固に固定されたロータリータービンが必要となるシステムに比べ、Mantaは安全で環境や地域社会に優しい発電が可能です。

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潮流の力を電気に変えるManta海底カイト(凧)システムのコンセプト図

潮の流れによる凧の揺れる動きで、電気を生み出す発電機を回します。凧が発電機の方向を向いたときには、発電機がモーターとしても働いて少しの力で凧を手繰り寄せることができます。この凧のシステムは、普通の船から1〜2人でメンテナンス可能な大きさです。凧の動きは季節による潮流変化に柔軟に順応し、嵐、船舶、海洋生物を避けることが出来ます。回転するローターとは異なり、凧は海洋生物への脅威にはなりにくいのです。

Mantaの利点は、最小限の構造物と設置費用で発電できることです。比較的軽くて低コストのポリマー複合剤でコーティングしたスポンジ状の構造物を中心とする設計であり、共同利用の点でも野生動物との共存の点でも安全です。凧もまた、突然や季節による潮流の変化、および、人や野生動物の活動、海流による海底の堆積物の変化に容易に適応できます。この単純化したアプローチにより、これまでコスト効率が高く安定した発電に苦慮していた風力システムよりも信頼性が高く、コスト効率の高いソリューションが可能になりました。

Mantaに必要な構造物は最小限であるため、グリッドから距離がある場所にも展開できます。このため、Mantaはアラスカの奥地など遠隔地での使用にうってつけなのです。多額の費用と労力をかけて遠方の電力グリッドネットワークに接続したり、大気汚染の大きな要因となるディーゼル発電機を使用したりする必要がなくなります。

Mantaの設計は、何が新しいのでしょうか?

SHARKSプロジェクトでは、遠隔地での小規模潮流発電を実用化するためのMantaコンセプトの開発に注力しています。また、Mantaはリモートマイクログリッドシステムや、より大規模な展開の双方に対応できる拡張性も備えています。野生動植物に悪影響を及ぼすことなく、また水力発電用ダムほど費用もかからず、環境を大きく変えずに河川の流れから発電できるように展開することができます。

Mantaはこの有益な成果を達成するにあたり、素晴らしいテクノロジーを採用しています。パワーテイクオフシステム(凧の動きを電流に変換する発電機)には、SRIが新しく設計をした「凧の紐と一体化したトランスミッションシステム」が使われています。このシステムは小さい構造物でありながら、凧の引く動きを直接ロータリー発電機に効率よく伝達することができるのです。SRIが発明したこの新しい設計では、高精度のベアリングを必要とすることなく、高速で発電機を回すことができます。つまり、より低コストのシステムなのです。その結果、Mantaはシンプルでコンパクト、かつ効率的になりました。

SRIのゴールはこのテクノロジーを商業利用できるようにすることであり、そのためには、カイトエネルギーシステムが色んな場所で適用できることを示さなければなりません。Mantaを通して、SRIは河川や潮流で効率の高い「発電」が可能であり、均等化発電原価(LCOE: Levelized Cost of Energy)の低い電力を生産できるという実現可能性を示します。

チームは幾重にも連なる課題に対応するため、海洋生物の保護、釣りやボートレジャーなど人々の活動が妨げられないように、各関係者と一緒になってMantaの新しいテクノロジーを応用していきます。

SRIのMantaシステムは、経済的な応用、設置と運営の容易さ、環境にやさしい、大規模化が可能という要素をすべてクリアする変革的なテクノロジーをまさに象徴するものです。このシステムは、相当量のクリーンな再生可能エネルギーを発電して、電力の供給が行き届かない遠隔地のコミュニティに提供するとともに、世界の気候変動に対する戦いの一助になることを約束します。

参考資料:

U.S. Department of Energy, ARPA-E SHARKS program project descriptions:
https://arpa-e.energy.gov/sites/default/files/documents/files/SHARKS_Project%20Descriptions_FINAL.pdf

Submarine Hydrokinetic And Riverine Kilo-megawatt Systems
https://arpa-e.energy.gov/technologies/programs/sharks


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