SRIは革新的な追跡技術でスペースデブリの危険性に取り組む


何十万個という小さなスペースデブリが地球軌道上で未だに追跡されておず、人類の宇宙開拓を危険にさらしている


通信衛星や気象衛星、全地球測位システム(GPS)衛星など、宇宙空間にある衛星という資産への社会的依存がますます高まる中、スペースデブリ(打ち上げられたロケットや軌道に乗った人工衛星など、人間の活動によって地球の上空に残ってしまったもの)のもたらす脅威が急上昇しています。

スペースデブリには、現在使われていない大型の人工衛星からごく小さなペンキの粒まで、さまざまな大きさのものがあります。ですが、これらのものはすべて、運用中の宇宙船や、宇宙船に乗っている宇宙飛行士、そして宇宙で作業している宇宙飛行士にとって深刻な脅威となるのです。というのも、地球上空の軌道上にあるものは時速20,000マイル(時速約32,187キロメートル)に近い速度で移動していることから、衝突すれば大きな打撃を受けることになります。

10センチより大きいスペースデブリは地上のレーダーを使ってうまく追跡することができることから、それに応じて軌道を調整するよう、衝突回避の警告を宇宙船のオペレーターに伝えることができます。しかし、小さなデブリは対策が取られておらず、脅威が増し続けているのです。驚くべきことに、1ミリメートルより大きいサイズのデブリが1億個超も地球の周りを飛び回っていると推定されていますが、このような危険なデブリのうち現在追跡されているのは1パーセントにも満たないのです。

SRIの研究者たちは、この増えつつある、把握されていない脅威に対応しようと、スペースデブリを追跡する革新的なアプローチを探求しています。研究者たちはこれをSOTERIA(Space Object Tracking and Evaluation via Radar Integration and Analysis、レーダーの統合と解析による宇宙物体の追跡と評価)と名付けました。この名前は、ギリシャ神話に登場する安全や危害からの保護を司る女神の名にちなんでいます。

SRIのシニアエンジニアでSOTERIAの主任研究員であるLin van Nieuwstadtは、「科学や通信、商業、そして諜報活動などあらゆる分野において、今後も宇宙を開拓するうえで、スペースデブリが深刻な脅威となっています。人類が宇宙という最後の未開地を開拓できるよう、SOTERIAプロジェクトでは宇宙空間にある物体の追跡を、高い信頼性でこれまで観測できなかったスケールまで拡大したいと考えています。」と言います。

SRIのGeoSpace研究センターのディレクターであり、SOTERIAの共同主任研究員でもあるTony van Eykenは、「私たちは砂粒ほどの大きさであるスペースデブリの粒子を追跡できるようにしたいと考えています。それほど小さな粒子でも、とてつもないエネルギーで衝突する可能性があります。人工衛星を運用している者であれば、自らのかかわる資産がこのような微粒子に衝突する可能性があるかどうかを気にするものでしょう。」と述べています。
SOTERIAは、既存の地上レーダーと今後数年の間に打ち上げられる宇宙船に搭載される検出器の一式を活用して、多数のシグネチャを用いて小型のスペースデブリをユビキタスに追跡することを使命としています。

そのようなシグネチャのひとつは、地上のレーダーからの電波が物体にあたって地球の表面まで返ってくるものですが、これらのわずかなシグナルをどのように判別するのかを把握していないといけません。散乱した電波のシグネチャは、局地的な宇宙センサーによってさらに判別ができる可能性もあります。

現在調査中のもうひとつのシグネチャは、地球の大気圏上層にあるプラズマや、宇宙のはるか彼方にある広大な放射線雲を通過する際にデブリが作り出す小さな「航跡」です。
このような目的を追求するにあたり、SOTERIAは昨年、国家情報長官室傘下の先端研究開発部門であるIARPA(Intelligence Advanced Research Projects Activity、インテリジェンス高等研究計画活動)に選定され、SINTRA(Space Debris Identification and Tracking、スペースデブリの識別と追跡)プログラムの一環として開発を推し進めています。

SRIはこのプロジェクトでデータの収集と分析、アルゴリズムの開発追跡、そしてプロジェクトの全体管理を担当しており、バージニア州に拠点を置くLeidosSCOUT Space Inc.という2つのサブコントラクターと協力しています。防衛、航空、情報技術を手掛けるLeidosはプラズマモデリングを、そして宇宙技術関連企業のSCOUT Space Inc.は宇宙搭載センサーとその展開計画にそれぞれ取り組んでいます。

衛星追跡技術の開発と実践について長い歴史があるSRIは、このプロジェクトに重要な専門知識を提供しています。

「宇宙空間における物体の検出・追跡に地上レーダーを使用することに関して、SRIの研究者は数十年の経験を有しています。このレガシーを生かして、SOTERIAでSINTRAプロジェクトの一端を担えることを嬉しく思っています。」とEykenは述べています。

新しい追跡手法の開発

SOTERIAチームは、複数のレーダー機器からデータを収集・分析して、大型の送信アンテナからすでに宇宙に送信されているレーダーのシグナルが、小さなスペースデブリに偶発的にあたって跳ね返り、どのように別の受信アンテナに返ってくるのかということについての研究を計画しており、これによって追跡の可能性を高めようとしています。この目的に向けて、SRIの研究者たちはスタンフォード大学にある「ディッシュ」と呼ばれている可動式電波望遠鏡を受信アンテナとして使うテストを実施しようとしています。

研究者たちはプラズマ航跡を検出するにあたり、スペースデブリが地球の電離層(地球の上空50マイルから400マイル(約80キロメートルから644キロメートル)に広がる大気上層)を通過するとき発するエコーのような信号をいかにうまく受信できるかを研究しています。実をいうと、このようなシグネチャを観測するという研究は1950年代後半の宇宙開発競争の時代にまで遡るのですが、そのころから常に追跡の分析から除外されていました。「これらのプラズマ・シグネチャは、これまで見過ごされていたのです。というのも、これの潜在的な有用性に気づいていなかったことから、探求の対象ではありませんでした。」とEykenは述べています。

SOTERIAプロジェクトの宇宙搭載センサーの開発は、プロトタイプのセンサーを衛星のペイロード(搭載物)として飛行させることで完結します。このテストは、これまでのタスクから構築されたインフラと得られた知識と統合されます。

SOTERIAを介したSINTRAの全体的な目的は、静止軌道にあるものに対する信頼性の高い追跡能力を拡大することであり、これによって地球の一部を常に監視できるようになることです。静止軌道とは、宇宙から約22,000マイル離れたところで、地球の自転と同じ速度で商業通信衛星や主要な気象衛星が周回しています。

「私たちの最終目標は、地球の表面から数千マイル範囲のどこにでもある小さなスペースデブリの粒子を追跡できるようにすることです。」とNieuwstadtは述べています。

本研究は、ODNI(Office of the Director of National Intelligence)、IARPA(Intelligence Advanced Research Projects Activity)、2023-23060200005から部分的な支援を受けています。本文書に含まれる見解および結論は著者のものであり、ODNI、IARPA、または米国政府の明示または黙示の公式方針を必ずしも代表するものと解釈されるべきではありません。米国政府は、著作権の注釈があっても、政府の目的のために別刷りを複製および配布する権限を有しています。IA52.205-714プレスリリース(契約締結の発表)(2017年6月)。


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