
1966年に設立されたSRI AIセンターは、世界初期のAI研究機関の一つとして、60年にわたりAIの発展を支えてきました
1966年、SRIの研究チームは「人間のように考え、行動できるコンピューターシステムを構築することは可能だろうか」という画期的な問いに挑みました。これが、今年で設立60周年を迎えるSRIのAIセンターの始まりです。
AIセンター最初の大きな成果は、世界初の実体を持つAIシステムロボット「Shakey(シェイキー)」でした。1966年から1972年にかけて開発されたShakeyは、カメラで周囲の環境を認識して、人と自然言語で対話し、自ら行動を計画して、与えられた目標を達成するために行動することができました。Shakeyが画期的だったのは、画像認識、移動、論理的推論、計画立案といった複数のAI技術を、一つの知的なシステムとして統合した点にあります。
その革新性は大きな注目を集めました。1970年には『Life』誌がShakeyを「最初の電子人間(first electronic person)」と紹介し、その後『National Geographic』誌でも特集されました。現在ではIEEEマイルストーンにも認定され、米国のコンピュータ歴史博物館に常設展示されています。
2017年からAIセンターを率いるKaren Myersは次のように語ります。「基礎研究は新製品の発表のように注目を集めることはありません。しかし、その基礎研究があるからこそ、新しい製品が生まれるのです。SRIは常に市場の一歩先を行く研究に取り組んできました。そして、その姿勢は60年経った今も変わっていません。」
「話せるAI」を実現するまでの歩み:研究室からスマートフォンへ
Shakeyの開発は、AIセンターの研究者たちに新たな課題をもたらしました。それは、「ロボットとどのように会話するのか」という問いです。この研究は、自然言語処理やエージェントAIの研究へと発展し、2000年代初頭には「CALO(Cognitive Assistant that Learns and Organizes)」プロジェクトへとつながりました。DARPAの「Personalized Assistant that Learns」プログラムの支援を受けたCALOは、当時、米国史上最大規模のAIプロジェクトの中核技術となりました。
2007年、SRIはこの技術を基にスタートアップ企業「Siri」を設立しました。その後、2010年にAppleが同社を買収し、2011年にはiPhone 4SにSiriが搭載されました。SRIが長年培ってきた対話型AI技術は、世界中の何億人ものユーザーの手に届けられることになりました。
一方でAIセンターは、Shakeyの研究を発展させる形で「Centibots」を開発しました。複数の自律型ロボットが連携して動作するこのシステムは、その後のロボティクス研究に大きな影響を与えました。
AIの未来:大規模言語モデル(LLMs)が切り拓くAIの次なるステージ
現在もAIセンターでは、人とAIの協働、自律システム、バイオインフォマティクス(bioinformatics)など、さまざまな分野で最先端の研究を続けています。近年登場した大規模言語モデル(LLMs:Large Language Models)は、新たな可能性を切り開いています。AIセンターでは、この技術を活用し、自律型エージェントを単なるツールではなく、人と協力して働く「真のチームメイト」へと進化させる研究を進めています。その中でも重要なテーマの一つが、「心の理論(Theory of Mind)」を活用して、AIが人間の意図をより深く理解できるようにすることです。
また、AIを社会インフラへ応用する研究も進めています。建築設計へのAI活用を支援しているほか、DARPAの「Rubble to Rockets」プログラムでは、ニューロシンボリックAI(neuro-symbolic AI)とLLMsを組み合わせ、アルミニウムやプラスチックなどの再利用可能な材料を活用した新たなハードウェア製造の効率化にも取り組んでいます。
さらに、SRIの教育部門との共同研究では、学校や教育機関がAIを適切に教育現場へ取り入れられるよう支援する新しいAIツールの開発も進めています。
Myersは最後に次のように語っています。「解決すべき課題はまだ数多く残っています。信頼でき、効果的なAIを実現することは、私たちが取り組むべき最も重要な課題の一つです。」

