バイオインフォマティクスは鉱山管理の改善にいかに役立つのか

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バイオインフォマティクス分野のスタートアップ企業による鉱山関連の研究において、SRIのBioCycプラットフォームが貢献


鉱山会社が採掘事業を閉鎖するときには、規制により採掘現場をほぼ元の状態に原状回復しなければならない場合がしばしばあります。鉱山からはヒ素や銅、亜鉛などの有毒鉱物が周辺環境に溶出する可能性があり、閉鎖空間にはメタンが充満することもあることから、爆発するリスクもまさに存在しています。
リスクそのものは化学物質が原因である一方、そこに至る過程では微生物が原因となっている場合も多々あります。微生物は鉱物の浸出を加速させることがあり、また、原材料からメタンを合成することができる微生物もいます。鉱山の現場において効果的な対策を展開するには、原状回復を手掛けるチームが鉱山における微生物群を理解する必要があるのです。

バンクーバー(カナダ・ブリティッシュコロンビア州)に拠点を置くバイオインフォマティクス企業のKoonkieは、最先端のバイオインフォマティクス研究がその影響力を遺憾なく発揮できる主要な分野として鉱山の原状回復をあげています。同社はSRIのBioCycプラットフォームを活用して、鉱山に生息する微生物に関する詳細な生態と、これらの微生物が採掘活動に与える影響を解明するにあたり、先導的な役割を果たしています。

鉱山の現場に生息する多様な微生物の理解は不十分

ブリティッシュコロンビア大学で癌の発生に微生物が果たす役割を研究し、学際的腫瘍学の博士号を取得した、Koonkieの最高執行責任者(COO)であるErin Marshall氏は、「鉱山の現場で見つかる微生物の80%は同定されていません。これらの微生物はまだ科学の力によって解明されていないのです」と述べています。

最初の課題は、このような「未知の微生物」を同定することです。しかし、実用的な見地からより重要なのは、文字通り微生物のスープのような混沌とした状態から、鉱山現場の化学的なバランスに影響を及ぼしているのではないかと思われる微生物を同定することです。

これらの微生物の機能を理解するには、その代謝経路を理解することが不可欠です。ここでSRIのBioCycプラットフォーム、特にBioCycのPathway Toolsが活躍します。

Koonkieは鉱山の微生物を理解するにあたり、どのようにBioCycを活用しているのか

Koonkieのチームは昨年、廃坑となった金の鉱山でパートナーと協力して、BioCycのPathway Toolsが鉱山の原状回復に関する具体的なプロジェクトでどのような役割を担えるのかについて実証しました。

現地での作業において、Koonkieのチームは特に注目すべき生物、具体的には海洋熱水噴出孔に生息する生命体(有機体)と同じ系統の新しいアーキア(archea、古細菌)が豊富にあることを特定しました。そして、そのアーキアは明らかに鉱山の現場で繁栄していたのです。ここで問題になるのは、この生命体が有害な化学物質の生成(あるいは無害化)に重要な役割を果たしているかどうかということです。

この疑問を解明するため、研究チームはまずこの生命体のゲノムシーケンスとアノテーションを行い、次にPathway Toolsソフトウェアにこれらの情報を入力しました。SRIが保有する代謝反応データベース「MetaCyc」をもとに、Pathway Toolsが計算によりこの生命体のゲノムとパスウェイの統合データベースを生成して、この特定の生命体の働きをモデル化しました。Pathway Toolsのアルゴリズムはまた、鉱山の現場において、複数の化学的な変換を経て物質を変化させるこの生命体の遺伝子が、生化学的なパスウェイ内でどのように組織化されているのかを示した相互接続のマップも作成しました。この代謝に関する概要を構築することにより、Koonkieは個々の遺伝子を超越した視点から観察することが可能となり、また、この生命体の機能的な能力を理解することもできました。

「ゲノムとパスウェイの統合データベースを構築することは、鉱山で働くこのような小さな生命体の遺伝子の設計図(ブループリント)を理解するのに役立ち、重要な鉱物の採掘量や鉱さいの安定化など、この業界全体の課題を解決するのに活用できるのです」―Erin Marshall

これによると、対象とした生命体にはメタンを生成するアーキアによく見られる遺伝子群が含まれていることがわかりました。そして、KoonkieのチームはPathway Toolsで生成したマップを活用し、代謝ネットワーク全体の機能についてより包括的に観察しました。すると、このような遺伝子が存在しているにもかかわらず、この特定の生命体の代謝からメタンが生成されるとは予想されなかったのです。

この生命体が鉱山の現場におけるメタンガスの発生リスクを高めないことが確認できただけでなく、このチームは原状回復のプロセスに有益となり得る代謝経路を特定できました。この生命体のゲノムとパスウェイの統合データベースからはヒ素の解毒経路が2つ予測され、そのうち1つは毒性の高い形態のヒ素を、忍容性の高い形態へと変換する機能を有していました。これはまさに、原状回復において非常に有望な特性です。

言い換えると、Koonkieのチームが鉱山の現場に存在する潜在リスクを特定したとき、環境面における懸念を低減することを目的としてこのリスクを分析したとき、そして今後鉱山跡地の修復活動を推進する際に利用できるようこの生命体の有益なプロセスを特定したときに、Pathway Toolsが活躍したのです。

鉱業におけるバイオインフォマティクスの未来

廃鉱鉱山の原状回復には、鉱山固有のマイクロバイオーム(微生物叢)を理解することが不可欠であるとMarshall氏は述べています。また、微生物が銅などの金属を原鉱石から分離させる力があるということを踏まえ、バイオインフォマティクス解析ツールが鉱物の採取においても強力な役割を果たし得るのではないかとも指摘します。

「まず代謝経路を理解すれば、その環境内における微生物の適応性を調整できるのです」とMarshall氏は述べています。

もし、その微生物が鉱物採取の効率化に寄与しているのであれば、環境内でその微生物が好む栄養素の量を増やせばよいのです。また、有害物質の生成に関与しているのなら、好みの栄養素の量を減らします。加えて、現場に手をかけてpHを調整したり、特定の微生物の種を増加もしくは抑制するためにもっと複雑な化学的手法を探求したりすることも可能です。

「鉱山の微生物の大半はまだ未解明であるため、その働きを理解するにはDNAの詳細なマップを作成する必要があります。ゲノムとパスウェイの統合データベースを構築することは、鉱山で働くこのような小さな生命体の遺伝子の設計図(ブループリント)を理解するのに役立ち、重要な鉱物の採掘量や鉱さいの安定化など、この業界全体の課題を解決するのに活用できるのです」とMarshall氏は締めくくります。

SRIのBioCyc ゲノムデータベースコレクションについての詳細はこちらをご覧ください。またはこちらまでお問い合わせください。


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