
SRIはIARPAの研究開発プログラムで、大気中に潜む危険な化学物質の識別能力を進化させている
遠隔での気体(ガス)検知に関しては現在、光学式のガスイメージングやレーザーベースのシステムなど、多くの高機能なツールが利用可能です。これらのツールを使って、例えば石油会社やガス会社などは安全な距離からメタンガスの漏洩を検知することができます。
しかし、エアロゾル(空気中に浮遊する液体または固体の粒子)の検知ははるかに困難な課題です。SRIのプログラムディレクターであるJason Tyanの説明によれば、問題は粒子の大きさ(サイズ)にあります。気体の分子はどこでも均一なので、検知や分類が容易です。それに対し、エアロゾル粒子のサイズには大きな幅があり、スペクトル特性が変わるため、識別が極めて困難なのです。
粉末状のフェンタニルから化学兵器用剤に至るまで、数多くの危険物質がエアロゾルとして拡散する可能性があります。このような環境リスクに対応するため、IARPA(Intelligence Advanced Research Projects Activity:インテリジェンス高等研究計画活動)はPICARDプログラムを立ち上げました。このプログラムの目的は、「過酷な環境下で複雑な化学的・物理的特性を有するエアロゾル粒子を迅速に識別できる、実戦配備可能なセンシングプラットフォームを開発する」ことです。
「このプログラムの課題は、低濃度の化学物質を遠隔で検知することです。問題は感度です。なぜなら、きわめて微弱な信号を検知しなければならないからです」 ―Jason Tyan
SRIはこのプログラムの初期の成果として、遠隔でのエアロゾル検知・同定能力を急速に進歩させており、将来的には、有害化学物質の意図しない放出時や悪意ある者による意図的な攻撃を受けた時に人命を救えるような応用に向けて研究を進めています。
実際に機能するエアロゾル検知器を構築する
現状では遠隔でのエアロゾル検知には限界があり、それを克服するため、SRIが主導するチームは能動的なアクティブセンシング(レーザー)と受動的なパッシブセンシング(ハイパースペクトルイメージング)という、2つの技術を採用したハードウェアとソフトウェアのソリューションを構築しました。
エアロゾルの検知には、どちらのセンサーも単独では欠点があります。赤外線イメージングセンサーの情報は、エアロゾルプルームの化学組成を特定できるほど精度が高くありません。一方、レーザーの精度はそれより高いのですが、有意義な情報を得るには反射率の高い背景を見つける必要があります。
「このプログラムの課題は、低濃度の化学物質を遠隔で検知することです。問題は感度です。なぜなら、きわめて微弱な信号を検知しなければならないからです」とTyanは述べています。
SRIのソリューションは、アクティブのレーザーとパッシブのイメージングという2つのセンシング方式を補完的に組み合わせることでこの感度という課題に取り組んでいます。パッシブセンサー(Passive Sensors:長波長赤外線のハイパースペクトルイメージングカメラと低照度可視の近赤外カメラ)は、エアロゾルプルームの形状と相対濃度を検知して、環境内にある反射面(Surfaces Of Opportunity、SOOs)に関する情報を収集します。そして、このパッシブセンサーのスペクトル特性を用いてレーザー(アクティブセンサー)の照射対象を絞り、エアロゾル粒子に関する詳細な散乱情報を収集するのです。
「プルームに単にレーザーを照射するだけでは、期待する結果は得られません。レーザーは、何かに照射して光子が反射し戻ってくる必要があります。これにより、分析の対象とする化学物質の特徴が含まれる反射スペクトルが得られるのです」とSRIの優秀なコンピューターサイエンティストであるMichael Isnardiは強調します。
このシステムでは、アクティブのレーザーとパッシブのイメージャーの双方から入力されるデータを、事前に構築した標的となる化合物の「スペクトルライブラリ(Spectral Library)」と比較することで、目的とする特定の化学物質の存在を鑑別することができます。SRIはハードウェアの層の下で、システムの確実なエアロゾル分類能力をさらに向上させるため、独自の機械学習アルゴリズムも構築しています。
エアロゾル検知における画期的な成果
SRIのチームは、社内および対外的な試験や評価により、提案技術のアプローチの有効性を実証しました。このシステムは最長110メートル離れた場所で複数の特定化学物質を検知することができました。これよりも近い場所では0.2 mg/m³という低濃度でも100種類を超える化学物質(毒性のあるフェンタニル類似体や化学兵器用剤前駆体を含む)を検知・識別する能力があります。
同時に、システムについてこのチームが構築している独自の機械学習モデルは、シミュレーションしたセンサーデータを基にした試験で極めて有望な結果を示しています。これは特に、スペクトルの歪みや反射面(SOO)の状態が良くない場合など、複雑な要因を説明するときに優れた結果を残しています。
「政府の試験および評価の結果が示しているように、私たちのチームはフェーズ1の性能目標に到達しただけでなく、これを上回ったと確信しています」とTyanは述べています。
「エアロゾルを遠隔で検知できる装置の応用には大きな可能性があると感じます。疑わしい薬物製造施設の監視から、有害物質の不法投棄の追跡、そして化学兵器用剤や無力化剤の早期警戒システム開発まで、多岐にわたるのです」 ―Jason Tyan
現在の技術水準と実戦配備可能なシステムの間には障壁がいくつかあるのは確かだとTyanは指摘しています。「遠く離れた場所では、湿度や温度、風など考慮すべき環境的な要因が増えます。これらの情報を検知システムに組み込むこと、つまり、環境に関するセンサーの層を追加することが必要になるのです」とTyanは注意を促します。また、実戦配備に適したシステムの構築には、パッシブの検知能力の高速化も重要になるだろうと付け加えています。
こうした初期の成果から、実戦配備可能な機器へと発展させることができれば、その利点は明らかです。SRIのチームは、麻薬取締りや産業監視、国内テロ対策、そして環境安全保障といった分野でエアロゾル検知による状況認識が高まれば、安全の向上に大きく貢献できるのではないかと思っています。
「エアロゾルを遠隔で検知できる装置の応用には大きな可能性があると感じます。疑わしい薬物製造施設の監視から、有害物質の不法投棄の追跡、そして化学兵器用剤や無力化剤の早期警戒システム開発まで、多岐にわたるのです」とTyanは締めくくりました。
SRIのエアロゾル検知に関する取り組みの詳細については、こちらまでお問い合わせください。
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