チームを「定量化」する


機械学習を活用してグループ内の関わり方を測定・追跡し、

コラボレーションを向上


私たちは、運動や睡眠といった普段の活動を追跡することにすっかり慣れてしまっています。そしてオンライン上の活動は、使用するほぼすべてのウェブサイトでとても細かく追跡されています。電子メールの応答時間などのオンライン作業指標を追跡している(または追跡させている)人もいます。追跡する事への賛成派はこのトレンドがもたらすメリットを主張し、反対派はプライバシーへの懸念を提起します(どちらも正しいでしょう)。しかしこれらの追跡の他にも、最終的により大きな影響を与える定量化の方法が新たに登場しました。それが「チーム内の関わり方」の測定・追跡です。

チームは重要

チームのパフォーマンスは、あらゆる人間の取り組みの中でもとりわけ大きな関心の対象となっています。企業や軍隊、学校は長きにわたり、敏捷性や協力など、チームとして実現できる行動について教育をして、その達成度を評価してきました。従来、チームのパフォーマンスは、実際の成果と目標(時間通りに予算内で製品を生産するなど)を比較して測定されてきました。これは確かに究極の手段ですが、グループや個人の行動の改善方法について具体的なフィードバックを組織やチームのメンバーに提供するには、手間や時間がかかりすぎてしまうことが多くあります。

SRIは、10年以上にわたってチームの行動分析に取り組んできました。米国防高等研究計画局(DARPA)が支援する「学習と整理を行う認知アシスタント」(CALO:Cognitive Assistant that Learns and Organizes)プロジェクトの一環として、関連するEメールやスライドと併せて音声によるやり取りを分析することにより、会議についての理解を深めています。このプロジェクトでは複数の会議を観察し、会議のトピックや会議によって決定された行動内容のモデルをよりよく学習することにより、時間の経過とともに会議に関する理解を向上させることを目指しています。

コラボレーションは必須スキル

SRIはここ最近、活動しているチームのコラボレーション行動を測定・追跡することに関心を寄せています。個人がグループとしてどのように協力しあうかを評価することに焦点を置いており、これを互いの関わり方によって測定します。チームメンバーが会話に参加する頻度、視線を向ける方向、姿勢のとり方などを把握することが、コラボレーション行動を評価する上での基礎となります。カメラとマイクが安価で手に入るようになり、多くの環境でリアルタイムの行動データを集めるチャンスが生まれました。データ駆動型機械学習が急速に向上しているため、こうしたデータから有意義な情報を抽出する機会が得られるようになったのです。当社は、このアプローチを職場で活用することを検討してきましたが、現在は教育環境に目を向けています。

教室内のコラボレーションの測定

教室は、コラボレーションスキルの評価・指導が重要となる場所です。国が定めるSTEM教育の基準や雇用ガイドラインの21世紀型スキルにはコラボレーションが必須スキルとして含まれているものの、コラボレーション行動を評価する私たちの能力は非常に限定的です。既存の方法の中には、研修を受けた者がオブザーバーとして立ち会うことを求めているものがありますが、実際に実施するためには多くの教室でコラボレーションの評価に費用がかかりすぎてしまい、金銭的に余裕がある場合でも実施の回数は少なくなります。また人間による観察では、正確な評価に重要ではあるものの、人間には捉えにくい行動指標を見逃す可能性があります。自動分析を用いたアプローチもありますが、人工的なコンテキスト(オンラインゲームなど)に限られ、指導に時間を要します。現在SRIの研究者たちは、実際の教室で本来の学習課題に取り組んでいる際に、学習の邪魔をせず最小コストでコラボレーションを評価できるツールの開発に取り組んでいます。

このSRIのプロジェクトは、教育部門(Education)情報およびコンピューティング・サイエンス部門(Information and Computing Sciences)による共同の取り組みであり、ノニー・アロンジ(Nonye Alozie)、アミール・タムラカー(Amir Tamrakar)、スヴァティ・ダーミヤ(Svati Dhamija)の3名が率いています。教室に設置したカメラとマイクが、授業課題に共同で取り組んでいる生徒からデータを集めます。直接観察できる低レベルの行動(視線の向き、うなずき、姿勢など)を、コラボレーションの評価に重要な高レベルの行動(話している人に注意を向けるなど)に関連付けるため、機械学習を用いてこれらのデータを自動で分析します。自然な言語理解と行動認識を通じた相互の関わり方の意味を探ることにより、議論を戦わせたり意見を取り下げたりするのではなく、生徒が互いの考えを踏まえてツールや成果を共有しているのか、あるいは単に議論を戦わせたり意見を取り下げたりしているのか、といったことを判断可能となります。

ブラックボックスを開ける

SRIのアプローチでは既存のコラボレーションに関する研究を踏まえた上で、検知可能な人間の明瞭な行動や状態に関するルーブリックの観点を用いて、コラボレーションを体系的に説明しています。マシンビジョンシステムが教室で撮った動画をインプットとして使用し、このルーブリック評価を入力します。ブラックボックスとなっているエンドツーエンドの深層学習システムと異なり、SRIのアプローチでは、人間の明瞭な構成要素としての行動と状態の観点からコラボレーションが説明されることになります。これは、教室でのコラボレーションを改善する上で、関係者に実用的なアドバイスを提供するための礎となります。さらにこの枠組みは、コラボレーションはどのような要素で構成されているのかという実証的問題を検証するものでもあります。つまり、コラボレーションの構成要素を調査する実験的プラットフォームとしても、また教室でのコラボレーションをきめ細かく評価するための自動ツールとしても活用できます。

現在SRIでは、データによる実験を行うとともに、機械学習のパイプラインに磨きをかけています。継続的なコラボレーション評価システムが導入されると、生徒と先生はリアルタイムで、また授業後に要約形式でフィードバックを受け取ることができます。生徒の進捗状況は、理想的なチーム行動の客観的基準に照らしてモニタリング・測定可能です。

チーム行動のサイエンス

コラボレーション評価の方法論と教室での実験で得られた知見は、職場などの環境でも普及できるでしょう。あらゆる環境にあるチームが、うまく行っている点や要改善点について、客観的で定量化された根拠を確認できます。目標に対してチームが最終的にどう行動したかについて実際のデータと組み合わせることで、一般的なアドバイスにとどまらず、効果的なチーム行動の新たなサイエンスを生む力をもたらしてくれるでしょう。

筆者:Bill Mark/ SRI International, President of Information and Computing Sciences(ICS)


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