持続可能なパッシブクーリングソリューションを実現するSRIの新塗料


太陽光を反射して余分な熱を宇宙に放射する自己冷却型塗料を開発


2023年7月は人類史上最も暑い月となりました。猛暑は人間の健康を脅かすだけでなく、電力網や屋外設備などのインフラにも多大なストレスを与えます。手の届く価格でエネルギー効率に優れたクーリング方法へのニーズが高まっていることから、SRIの研究者は究極のエネルギー効率を実現する自己冷却型の水性塗料を開発しました。この塗料の作用には電気も何らかの動力源も必要ありません。

この塗料の開発を主導しており、SRIの科学者であり研究者である素材エンジニア(Materials Engineer)のAnish Thukralは次のように述べています。「既存のアクティブクーリングのソリューションは持続可能ではないため、今後も満足な効果は期待できないでしょう。我々のこのようなパッシブクーリングソリューションは、空調よりも安価で手に入れやすいことから、特に価値が高いと思います。」

見た目は一般的な白い住宅用塗料ですが、SRIが開発したこの塗料には慎重に設計した色素が含まれており、2つの方法で冷却効果を発揮します。1つ目は太陽光の反射であり、SRIの研究者が測定した反射率のデータによると、塗料に当たった太陽光の96%を反射します。つまり、塗装面は太陽の熱をほとんど吸収せず、晴れた日に白いTシャツを着ているのと同じような効果があります。

2つ目の冷却メカニズムは、もう少し複雑です。塗料に含まれる素材は、大気中の透明窓(大気の窓、地球の大気を容易に通過することが知られている赤外線の特定の波長帯域)で熱を放射します。これらの波長は大気中で相互作用するものが何もないため、研究者たちは塗料と冷たい宇宙空間との温度差を利用して熱を放散させました。カリフォルニア州パロアルトの屋上で実施された社内テストによると、この塗料を塗っているところの表面は周辺気温より約5.6℃(10˚F)、塗料を塗っていないところよりも約12.88℃(23˚F)低い温度になり、冷却効果があることを実証できました。

「これこそがまさに科学の魔法です。熱を直接逃がす場所として利用しているのは宇宙空間なのですが、宇宙はいつでも利用可能で、常に極寒です。ですから、これはクリーンかつ持続可能な冷却ソリューションなのです。」とThukralは述べています。

興味を持った関係各所といくつか用途を検討した結果、研究者たちは初期段階の活用例として、携帯電話の電波塔に取り付けられているような屋外設置用の電気関連機器を収納するボックスへの応用を見込んでいます。このようなボックスは内部にある繊細かつ高価な電子機器を保護するために、内部の温度を調節する必要があります。

多くの場合、自然換気や冷却ファンでは猛暑に対抗できず、空調では結露が発生して電子機器にダメージを与える可能性がありますが、SRIのパッシブクーリング塗料を使えば、温度を動作の安全範囲内に保つことができるため、システムの保護となり、機器の寿命を延ばせる可能性もあります。

さらに、SRIは水性塗料も開発しました。水性塗料は溶剤系のものに比べて使いやすい上に価格も安く、有害な揮発性有機化合物(VOC: Volatile Organic Compounds)の発生量も少ない塗料です。また、この塗料にはPFAS(Per and Polyfluoroalkylsubstances:ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)が含まれていません。PFASは塗料に広く使用されている化学物質群で、健康に対するリスクが指摘されています。また、スプレーやロール、またブラシでも簡単に塗ることができます。

Thukralは次のように述べています。「様々な表面への吸着性も良好ですし、柔らかい基材だけでなく硬い基材でも問題ありません。また、商業用の塗料と同様の耐摩耗性があり、汚れても水で洗うことができます。」

SRIでは現在、電気ボックスへの応用を中心としており、研究開発試験プログラムを介してパートナーを探していますが、研究者たちは最終的にこの塗料を屋上に塗って建物の温度を下げたり、自動車に塗って車内を涼しく保ったり、あるいは夏の暑い日でも子どもたちが遊具を使えるようにしたりすることを想定しています。

「私たちはこの塗料を世の中に送り出そうとしています。これは、非常に幅広い人々に影響を与える可能性があります。」とThukralは述べています。


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