肺腫瘍を標的として細胞内に治療薬を送り込むペプチドをSRIインターナショナルの科学者たちが開発

lab petrie dish with hands
lab petrie dish with hands

最適化した新たな分子ビークルは、肺腫瘍を標的として抗がん剤を効果的に送達させることができる


肺がんは、世界中で毎年、他のどの種類のがんよりも多くの命を奪っています。世界保健機関(WHO)によると、2020年には約180万人が肺がんで死亡したと推定されています。現在の治療法は、がん患者に苦痛を与える副作用がある一般的な化学療法、もしくは、多くの患者が適用外となる可能性の高い、非常に特殊な変異を伴う腫瘍を標的に絞る治療法という2つの方法のいずれかしか選択できず、闘病生活や治療を困難にしています。

SRIインターナショナルの研究者たちは、肺がんの大部分を占める非小細胞肺がんを治療する薬剤送達(ドラッグデリバリー)の手段として、新たなペプチド(2つ以上のアミノ酸を含む分子)を設計し、これを最適化しました。Nature誌のCommunications Biologyに先日掲載された研究によると、このペプチドは大きな抗がん剤を運んで標的のがん細胞とうまく結合することができ、ペプチドとその積み荷をがん細胞の内部に送り込むプロセスの誘因を明らかにしました。

「このペプチドは細胞膜を通過できないような大きな積み荷でも、細胞内に送り込むことができます。健康な細胞を回避しつつ、治療薬を腫瘍細胞の内部に送り込むことができるため、副作用発現の確率を最小限に抑えることができるのです。」とSRIのバイオサイエンス部門の薬物送達システム(drug delivery systems)担当兼Vice Presidentであり、この論文の筆頭著者であるKathlynn Brownは述べています。

現在、同じような標的薬の多くは、がん細胞の表面にある特定の受容体と結合する抗体によって送達されています。しかしながら、抗体の代わりにペプチドを使うことにはいくつかの利点があります。まず、ペプチド分子は非常に小さいので、腫瘍の奥深くまで入り込むことができます。また、抗体は細胞の中で生物学的に合成する必要がありますが、ペプチドは化学的に合成することができます。製法が化学的であるということは、より速く、より安価で、最終的な結果をより正確にコントロールできるということを意味します。

「化学的に作れることから、薬剤をどのように組み込むかについて、柔軟性がかなり高いのです。どんな薬物や積み荷でもつけることができ、それがどこにあるのかを正確に知ることができ、研究室にあるツールで変更することもできます。」とBrownは述べています。

何十億という候補の中から適切な特性を持つペプチドを見つけるにあたり、Brownとそのチームは独自の選択プロセスを用いています。今回は、健康な細胞を回避しつつも、がん細胞を探し出して結合し、生物学的プロセスの誘因となってペプチドとその積み荷を細胞内に素早く取り込むことができ、なおかつ、体内を循環する間に分解されないというペプチドが必要でした。

「私たちは、特定の細胞表面マーカーを標的にしようとはしていません。偏見のない選択と呼ばれる手法を採用していますが、これは、細胞のほうから教えてくれる最善の答えに任せるという意味です。我々は、母なる自然を出し抜こうとしているのではありません。」とBrownは述べています。

Brownとそのチームは、MGS4という適切な特性を持つペプチドを特定すると、できる限り効率をあげられるようにこれに微調整を加え、単独ではそれほど効率的に細胞内に入ることができないサポリンという有毒タンパク質を用いた試験を実施しました。すると、MGS4と結合させたサポリンを投与したマウスの腫瘍は18日間の治療期間後、未投与のマウスやサポリン単独で投与した場合のマウスの腫瘍に比べ、その大きさが半分になったのです。

この研究により、MGS4が肺がんの標的治療薬の開発における貴重なツールとなる可能性が示されました。また、MGS4は様々な薬剤を運ぶことができるため、研究者たちは早速、治療の促進につながるMGS4の可能性探求に取りかかっています。

「このタンパク質の毒素は、我々の治療コンセプトとしては初めてのものですが、本当に重要なのは、このペプチドが腫瘍細胞の中に毒性のある大きな生物学的治療薬を送達できるということです。我々は、このペプチドを様々な場面へと応用し、複数の異なる治療薬で使用することに大きな期待を寄せています」とBrownは語りました。


Read more from SRI