SRIの75年間のイノベーションについて:人工筋肉(Artificial Muscle)


人工筋肉に使用される「電気活性高分子」技術(EPAM)の開発と様々な商業用途への応用


「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

人工筋肉の鍛錬:人工筋肉用の電気活性高分子(EPAM)がゲームチェンジャーとなるまで

「Artificial Muscle Inc.のEPAMをベースにしたUMA技術は、その軽量かつ高密度出力という特性により、小型アクチュエーターの業界市場を一掃するような革命を起こす可能性がある」

Frost & Sullivan社リサーチアナリスト、Vishnu Sivadevan氏

人々の多くは、自分の筋肉を当たり前のように使っています。コーヒーを飲もうとカップを持ち上げると、腕や手、顔の筋肉が調和して動き、やっとコーヒーを飲むことができます。しかし、この当たり前な筋肉の力や柔軟性、繊細なコントロールが、産業オートメーション、商業、航空宇宙、あるいは医療テクノロジー(健康テクノロジー)の各分野で利用できるとしたらどうでしょうか。

人間は、筋肉の優れた力を使いこなしています。いくつかの筋肉を収縮、または弛緩させることによって、例えば家を建てたり、子供を育てたり、レースに勝つこともできるのです。SRIインターナショナルの研究者は、自然の筋肉にある微妙なバランスをとる能力を備えた、産業界で使用可能な人工筋肉として、電気活性高分子人工筋肉(EPAM: Artificial Muscle Electroactive Polymer)を発明しました。

SRIが電気活性高分子をいかに使用して強靭な人工筋肉を開発したのか、詳しく見ていきましょう。

人工筋肉用の電気活性高分子(EPAM)を支える技術

電気活性高分子人工筋肉(EPAM)は、厚さ10μm~200μmの誘電エラストマー高分子フィルムをベースにしたアクチュエーターです。誘電高分子は通常、”電子を帯びた”電気活性高分子(EAP)であり、柔軟性に富み、かつ製造コストが低く、化学的に安定しているためEPAMの鍵となる素材なのです。

アクチュエーターは、2つの電極層で作用します。第1電極層はポリマー層の第1表面と接触し、第2電極層はポリマー層の第2表面に接触します。また、アクチュエーターとソニックアクチュエーターフィルムの間には支持構造があります。これにより、電流を流すと2つの吸引電極がシートを水平方向に圧縮するというEPAMの基本的な仕組みを構成しています。

それでは、EPAMを人間の筋肉の働きに例えてみましょう。自然の筋肉は、化学エネルギーを運動エネルギーに変換して、コーヒーカップを持ち上げるような機械的な作業に利用する生物学的アクチュエーターです。これと同じように、EPAMは電流を流すと収縮し、電流を流さないと弛緩します。また、ポジションを保持するのに電流を流す必要がほとんどありません。EPMAを用いた人工筋肉は、本物の筋肉と同様に、電気エネルギーを(プログラム可能な)機械的な動き(運動エネルギー)に変換します。

EPAMベースの製品に採用されている誘電高分子フィルムにある独自の特徴は、その高いエネルギー効率です。これは、EPAMベースの製品がこれまでのものより軽量かつ頑丈で安価であり、そして前述の通り省エネルギーであることから、商業用途に適しているということを意味します。そしてEPAMベースの製品は、より静かで毒性もありません。EPAMに毒性がないということは、筋肉の機械的機能を必要とする医療機器の候補になることができるのです。

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テクノロジーの歴史における、「人工筋肉用電気活性高分子」の位置

SRIインターナショナルは、人工筋肉を製造する会社であるArtificial Muscle, Inc.(AMI)を2003年にスピンアウトして設立しました。AMIは、SRIが特許を取得したEPAMテクノロジーを商品化して、オーディオスピーカー、発電機、モーター、ポンプ、バルブ、センサー、医療機器などに採用しました。EPAMに使用されている電気活性高分子は、この技術の性能の鍵を握っていると言っても過言ではありません。

AMIは、EPAMの商品化にあたり、シリコン高分子とアクリル高分子を使用しました。

2006年、AMIは同社のユニバーサル・マッスル・アクチュエーター(Universal Muscle Actuator™、UMA™)でFrost and Sullivan社のアクチュエーターテクノロジー製品におけるイノベーション・オブ・ザ・イヤー賞を受賞しました。

サイエンティフィック・アメリカン誌の2003年10月号の見出しは、「Artificial Muscles(人工筋肉):形状変化するプラスチックが、動く機械のモーターの後を継ぐ」(Artificial Muscles: Shape Shifting Plastics Replace Motors in Machines That Move)というものでした。

2010年にはBayer MaterialScience LLCがArtificial Muscle, Inc. (AMI)を買収しました。この買収で開発された技術のひとつが、人工筋肉技術をベースにしたゲーム用の高臨場触覚フィードバック装置でした。これが、触覚装置「ViviTouch」です。EPAMを応用した「ViviTouch」が本当の「ゲームチェンジャー」となったのは、この技術によって実現した繊細なコントロールとフィードバックの感触が要因でした。当時、ある記事ではViviTouchについて、「ViviTouchのアクチュエーターの最大の利点は、非常に高速で微細な動きを作り出すことができるため、無数の異なる種類の感情を伝えることができることである…ViviTouchには、ボールが木の上を転がるような、あるいは車のギアがシフトするような、微妙な動きを伝える能力がある」と述べられています。

EPAMテクノロジーを採用した人工筋肉の将来性としては、ロボットやスマートスピーカーへの応用が考えられます。また、近い将来のプロジェクトとしては、義肢や装具に使用する人工筋肉として「スーパー人工筋肉」という概念も提唱されています。

EPAMをベースにした製品が提供できる機能により、1970年代のアメリカのテレビドラマ「600万ドルの男(The Six Million Dollar Man)」シリーズの内容が現実のものとなる日が来るかもしれません。

参考資料:

Chiba, S., et.al., Electroactive Polymer Artificial Muscle, J-STAGE Vol 24, №4 May 2006: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj1983/24/4/24_4_466/_pdf

Pelrine, R., et.al., Elastomeric dielectric polymer film sonic actuator, United States Patent 6343129, 01/29/2002: http://www.freepatentsonline.com/6343129.html

Hexapod Robot using EPAM: https://www.youtube.com/watch?v=7Qxvyw5tUko

Scientific American October 2003, Vol. 289: https://www.scientificamerican.com/magazine/sa/2003/10-01/

Artificial Muscle Inc’s Universal Muscle Actuator Named Actuator Technology Product of The Year by Frost & Sullivan: https://www.prweb.com/releases/2006/06/prweb401821.htm

Artificial Muscle, Inc., (AMI) press release, Electroactive Polymer Artificial Muscle — EPAM — Development Kits Available from Artificial Muscle, Inc.; Seven Different Configurations Available for March Delivery, February 2005: https://www.businesswire.com/news/home/20050228005373/en/Electroactive-Polymer-Artificial-Muscle—EPAM—Development-Kits

Bayer MaterialScience acquires Artificial Muscle, Inc.: https://www.k-online.com/en/News/K_Archive/Bayer_MaterialScience_acquires_Artificial_Muscle,_Inc.

Engadget, ViviTouch haptic technology hands-on: electroactive polymer giving a ‘high definition feel’: https://www.engadget.com/2011/09/17/vivitouch-haptic-technology-hands-on-electroactive-polymer-givi

Destructoid magazine, ViviTouch: The future of feedback: https://www.destructoid.com/vivitouch-the-future-of-feedback-268877.phtml

JChiba, S., Dielectric elastomer artificial muscles (Energy harvesting and high- efficiency actuation), Mater Eng Appl Vol.1 №1 October-2017: https://www.pulsus.com/scholarly-articles/dielectric-elastomer-artificial-muscles-energy-harvesting-and-highefficiency-actuation.pdf

NBC, Six Million Dollar Man: https://www.nbc.com/the-six-million-dollar-man


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