
企業内イノベーターがテクノロジー主導の変革を起こせるよう、CowartはNSICでイノベーターたちにツールとマインドセット、そして戦略を提供するチームを率いる
Chris Cowartは野村SRIイノベーション・センター(NSIC)のマネージング・ディレクター(所長)です。
このブログでは、CowartがSRIに引き付けられた魅力を説明するとともに、所属する企業内で影響力のある変革を推進すべく力を尽くすイントラプレナー(社内起業家)たちの頼もしい拠点へと成長したNSICの経緯について語ります。
2021年の立ち上げに尽力した「野村SRIイノベーション・センター(NSIC)」を率いるため、SRIに入社されましたが、この取り組みのどのような点に魅力を感じられたのでしょうか。
SRIは1960年代から、日本における先駆的な企業とともに歩んできました。そして、SRIと野村ホールディングスは2021年、日本企業のイノベーションのあり方を再定義すべく、この関係をさらに深めようと決断しました。NSICでは現在、日本の企業内イノベーターが、テクノロジー主導の成長と新たなビジネスチャンスを後押ししていけるよう、体系的な探求に深く取り組むべく設計された4つの主要プログラムを運営しています。
私はこれを、シリコンバレーでの25年間の経験から得た知見を活かして、イノベーションに関するプログラムとオープンイノベーションセンターを一から立ち上げる絶好の機会だと捉えたのです。
「NSICは、文字通り、私たちが今日暮らしている未来そのものを生み出した世界トップクラスの研究機関の能力と積み重ねてきた経験に基づく、イノベーションのプロセスや考え方(マインドセット)を共有しています」―Chris Cowart
シリコンバレーという「オペレーティングシステム」の構築において、SRIは重要な役割を果たしてきました。パーソナルコンピューティング、ネットワーク、AI、ロボティクスなど、数多くの産業そのものを生み出す中心に存在してきたのです。私はNSICを、SRIの「玄関口」の一つだと捉えています。私たちはシリコンバレーの形を変革しつつあるような最先端技術を有する企業と世界中からのテクノロジー関連投資をリアルタイムで結び付けています。これは同時に、文字通り私たちが今日暮らしている未来そのものを生み出した世界トップクラスの研究機関の能力と積み重ねてきた経験に基づく、イノベーションのプロセスや考え方(マインドセット)を共有しているのです。
SRIに入社する前は、イノベーションの過程を様々な角度から見る機会があったのではないかと思います。複数のベンチャーキャピタル企業での勤務やIDEOでプロダクトデザインチームを率いたこと、そしてシンギュラリティ大学(Singularity University)のイノベーションに特化した講座で教鞭をとったこと、また、食品関連やスポーツ関連のテクノロジーを扱うスタートアップ企業との協業など多岐にわたる経験をお持ちですが、このような様々な分野の関心や経験をつなぐ、共通の「糸」のようなものはあるのでしょうか。
そうですね、私は90年代半ばにシリコンバレーに来てIDEOに入社しました。私たちは当時、シリコンバレーの多くのスタートアップや新興テクノロジー企業の背後にいる秘密の設計チームだと思われていました。学際的かつ人間中心的なアプローチで設計することの意義を明示していたのです。私たちは皆、自らを「設計者(デザイナー)」と呼んでいました。大学の学位が何であれ、私たちは「デザイナー」であるとしたのです。
その後、IDEOを数年間休職してスタンフォード大学のビジネススクールに通ったことで、新たな視点が加わりました。ビジネス用語やその仕組み、そして単なるデザインに関する課題の解決だけではなく、ビジネスを設計して組織を運営する方法について学びました。
「重要なのは、市場向けのソリューションを構築するだけでなく、そのソリューションを進化させ、持続的な価値を生み出せるように組織の能力を強化することです」―Chris Cowart
それ以来、私は次のような問いを中心に据えて、大半の業務を展開してきました。「人間中心設計の知見やプロトタイピングなどのツールキット——『デザイン思考』革命の中核を成すあらゆる要素——を、製品設計にとどまらず、いかにチームや組織に応用できるのだろうか?」
また、単に市場向けのソリューションを構築するだけでなく、そのソリューションを進化させて持続的な価値を創出できるよう、組織の能力を強化することが重要です。私の内なる指針はまさに、企業が未来を予測し、その未来に対応する能力を構築するための「フルスタック型イノベーションツールキット」を開発することに向けられていました。
その考え方は、具体的にどのようにNSICのプログラムに反映されているのでしょうか?
2021年にNSICを立ち上げていた頃、このセンターの「精神的な象徴 (Spirit Animal)」となるのは「イントラプレナー(社内起業家)」であると気づいたのです。これまでのキャリアを通じて、私はProcter & Gamble、Gillette、Medtronic、Pfizerなどの組織内で、驚くほど才能豊か、かつ、意欲的で野心的なイントラプレナーたちを見てきました。この人たちは、このような大企業の中でいかにチャンスを見出すのかを熟知していました。そして、専門知識と予算を駆使して社内外の力を結集し、新たなビジネスを創出していたのです。
私はIDEOでの最初の日々から、このような人たちが魔法のように仕事する姿をずっと見てきました。そして現在、SRIで継続的に運営しているプログラムで私たちが支援している対象は、まさにこのような人々です。
今年は、日本国内で所属企業とより密接な関係を維持する必要があるイントラプレナーたちにもこのプログラムを提供することができるようになりました。私たちのプログラムの95%は米カリフォルニアのメンローパークで行っていますが、新しいハイブリッドプログラムは東京を拠点としており、このツールキットを取り入れて12週間という凝縮した期間で実施しています。これは、イノベーションに関する知見を、最も有効に活用できる位置にいる人たちに届けられる、新しい方法なのです。
このNSICプログラムの重要な要素の一つは、プログラムの参加者とSRIのサイエンティストやエンジニアをつないで、未来のイノベーションを探求することにあります。SRIの技術開発のうち、どのような分野が関心を集めているのでしょうか。
SRIはテクノロジーの未来、つまり今後5年から7年の間に大きな影響を与えるであろうものをおおむね体現しています。これは研究者にとっても、ビジネスを立ち上げる人々にとっても、そして投資家にとっても刺激的なものです。
当然のことながら、今日の話題の多くはAIに関するものです。SRIはAIの研究所を世界で最も初期に設立した機関の一つですが、AIが現在直面している課題を解決することに焦点をあてたプロジェクトを数多く手掛けていることから、私たちの研究には今もなお極めて大きな意義があります。私たちはAIの「説明可能性」を高める研究を行っています。また、AIのリソース効率を向上させる方法にも取り組んでいます。このような新しいツールやプラットフォームをクライアントの手元に届けることは非常に重要なことなのです。
「これは企業にとって、シリコンバレーと深く関わってその仕組みを理解し、さらにシリコンバレーの未来に貢献できる絶好の機会となるでしょう」―Chris Cowart
さらに、合成生物学から診断に至るまで、AIと生物学の融合も進んでいます。AIを活用して、より低コストでより大規模に、かつ、よりアクセスしやすい形で、どのように新しい治療を生み出せるのでしょうか。
多くのクライアントはまた、気候変動対策にも引き続き注目しています。例をあげると、テクノロジーを活用して製品の原価を削減したり、二酸化炭素の新しい回収手法を追求したりしています。SRIが最近取り組んでいる二酸化炭素回収に関する研究は、このような関心に応えるものです。
日本とシリコンバレーのイノベーション・エコシステムに新たな架け橋を築く上で、最も刺激的だったことは何ですか。
1990年代、パロアルトのダウンタウンにバスが次々とやってくるようになりました。世界中から集まった人々が、ベンチャーキャピタルの投資家と面会したり、IDEOで何が行われているか視察したり、Googleのようなスタートアップ企業について理解したりしようとしていたのです。オフィスを構える企業さえありました。しかし、このような取り組みは往々にして長続きしませんでした。企業はシリコンバレーを探索しても1~2年で成果が出なければ、別の場所へ移っていきました。それは、言わば「イノベーション・ツーリズム」とも呼べる状態でした。
NSICの目標は、参加企業と長期的に成果をもたらせるような適切な関係を築くことができる、持続可能なオープンイノベーションの拠点とセンターを作り出すことでした。これは、企業がシリコンバレーと深く関わってその仕組みを理解し、さらにシリコンバレーの未来に還元して貢献できる絶好のチャンスです。
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