
SRIは米国防高等研究計画局(DARPA)のHAPPIプログラムに取り組み、電子ではなく光を用いた情報伝送回路の飛躍的な性能の向上を目指す
コンピューティングに使用されるすべての集積回路には、共通する基本的な特性があります。回路の密度が高まり接続が増えると、性能は向上しますが、それと同時に「熱」の発生も増加します。そして、ある時点に達すると、そこからは発生する熱で回路の性能が低下し始めます。
過去20年間、科学者たちはこの問題を克服するため、光集積回路(Photonic Integrated Circuits:PICs)の開発に取り組んできました。現行の標準的な回路は、半導体ベースのチップと金属コネクタにより電気を用いて情報を伝送しています。それに対し、PICsは光を用います。理論上、発生する熱は電気よりも光のほうがはるかに少ないため、PICsのルーティング密度はこれまでになく高くすることが可能です。しかし、PICが実際にその潜在能力を最大限に発揮して次世代の情報処理を推進するには、科学者たちは集積回路の内部で光をより正確に制御できるようにする必要があります。
SRIの研究者たちは今年、光回路の性能を大幅に向上させることを目的とした米国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)のプログラム異種適応型フォトニックインターフェース(Heterogeneous Adaptively Produced Photonic Interfaces (HAPPI))で研究を開始しました。
「コロラド州ボルダーにあるSRIの施設は、PICsの設計・試験に卓越した専門性を有し、ニュージャージー州プリンストンの施設は、従来型ファウンドリサービスの標準的な提供範囲を超え、あらゆる特殊なファブリケーションに特化しています」とSRIのSenior Research ScientistであるDavid Hillは述べています。これらの施設と技術力によって、SRIは次世代フォトニクス研究のリーダーに名を連ねていると指摘します。
高度なフォトニック回路の課題
「エレクトロニクス業界では、このバックエンド技術であるメタライズ加工の開発に数十年の歳月を費やしてきました」とHillは述べています。「さまざまな金属の層を何層も積み重ねることで、単純な二次元の方法ではつなげられなかったチップ上の異なる領域が接続できるようになります。接続、メモリ、そしてストレージの密度は絶えず高まっていきます。現在のCMOSチップを可能にしている要因はまさにこれなのですが、フォトニック集積回路(PICs)にはまだこのレベルの複雑さが存在しないのです」
「フォトニックコンピューティング(photonic computing)が電子コンピューティングのすべてに取って代わるとは言いたくありませんが、一定のケースでは、従来の電子機器よりもPICsに高い優位性が存在します」―David Hill
複雑な三次元フォトニック回路を実現するには、3つの根本的な課題を解決しなければならないとHillは指摘します。まず、光を二次元の平面から解放すること、次に、光がウェハーの厚みを貫通して伝播し、チップ間を移動できるようにすること、そして最後に、チップ間の光の伝送損失を低く抑えること、特にチップ間に位置ずれがある場合はなおさらです。
PICsについて、DARPAのHAPPIプログラムでは、ロスが少ない相互接続と高密度のフォトニックルーティングにかかわるいくつかの性能指標を特定し、これらを向上させることを目指しています。SRIの研究は二段階に分けられます。まず、概念実証として4層のフォトニック層を有するPICを作成し、次に回路の構成密度をさらに高めます。SRIにとって、これを実現するために不可欠な要素は、垂直な導波路のエッチング、折り返しミラーの設計、ポリマーベースの相互接続の採用といった新たなアプローチです。
PICsは国家の安全保障にとどまらず、商業分野にも貢献する
現代の軍事技術が強力でコンパクト、かつエネルギー効率に優れた集積回路に依存していることを鑑みると、先進的なフォトニック集積回路(PICs)は国防に重要な影響を与える存在です。しかし、PICsは電子回路が現在物理的な限界に直面している分野においても商業的に意味のある存在です。
フォトニック回路が根本的なブレークスルーをもたらす可能性のある分野として、Hillはイメージングをあげています。現行の回路は、高性能イメージャーの高速データ収集(1秒当たり1,000フレームを超える場合もある)に対応できていません。PICsは理論上、このようなデータの高忠実度(ハイファイ)伝送、あるいは伝送前に不要な情報を速やかに除去することでデータの迅速な「剪定」(簡素化)も可能です。
HAPPIプログラムの革新性に拡張性を加えるには、単にそのままの能力だけでは不十分だとHillは付け加えます。このチームはPICの将来的な大規模展開も視野に入れています。「これらのツールは今後、ファウンドリプロセスにも適合する必要があります。これが設計の根底にある制約です」
「フォトニックコンピューティングが電子コンピューティングのすべてに取って代わるとは言いたくありませんが、一定のケースでは、従来の電子機器よりもPICに高い優位性が存在します」とHillは締めくくっています。
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