
SRI主導のLEARNネットワークは、エビデンスに基づく最良の教育プログラムを、どうやって教育現場や児童生徒へ届けられるのかを示す
市場には教育に関する製品や教材が溢れているにも関わらず、米国の教育関係者は数々の問題に直面しています。
SRIのPrincipal Education ResearcherでTechnical Assistance ProviderでもあるKerry Friedmanは、最も有望と思われる解決策の多くが、教育の「現場」に全く導入されないということが真の問題であると指摘しています。
これは、たとえ最良の状況であったとしても懸念すべき問題です。現在、算数・数学、読解がコロナ禍の成績低下からいまだ回復していないため、極めて深刻な課題となっています。
LEARNネットワーク(LEARN Network)は、米国教育省の教育科学研究所(Institute for Education Sciences)の資金提供を受けSRIが主導するプログラムであり、この深刻な問題を解決するのにまさに適しています。
「教育に関係する人々が新しいプログラムや実践を導入し、それを継続するには、『本当に効果があるかどうか』ということだけではなく、実に多岐にわたる理由があるということがわかりました。LEARNネットワークは、この理由を解明するとともに、教育現場にエビデンスに基づいた教材を確実に導入する方法を模索するために設立されました」とFriedmanは述べています。
なぜエビデンスに基づく教材は普及が進まないのだろうか
研究によると、確固たる実験的エビデンスに基づいた教育プログラムは、教育現場で成果の向上につながることが示されています。そうならば、すべての教育現場で最も厳格なエビデンスに基づくアプローチを活用できるにもかかわらず、採用されていないのはなぜなのでしょうか。
Friedmanは次のように述べています。「この問題を解明するにあたり、私はよく、行動を研究している同僚が話してくれたことを引き合いに出します。この同僚たちは、学校全体を対象とした介入プログラムを実践し、良好な成果を上げていました。子どもたちは本当によくやっていたのです。そして、この研究が終わるときに、今後、行動上の課題にどう対応していくつもりか、数名の教師に尋ねました。すると教師たちからは、『たぶん、また子どもたちを校長室に送るだけになるでしょう』という趣旨の答えが返ってきたのです」
「教材の開発者は、学校や学区ごとに調達の過程がいかに異なっているかについて、確固たるデータにアクセスできていなかったのです。このようなデータがなければ、効果的な普及戦略を策定することは非常に困難です」―Kerry Friedman
Friedmanによると、こうした話は教材の開発者の間では極めてよくあることであり、「これは、児童生徒にとって最も良い結果をもたらそうと教師が思っていない、ということでは決してありません。そのプログラムを実践すると、授業の流れが大きく乱れたり、リソースを過剰に消費したり、研修や継続的なサポートに多大な時間を要したり、あるいは単に好まれなかったりするからなのです」と指摘しています。
時には、有望なプログラムであっても、そもそも教育の現場にたどり着くことさえありません。少人数の研究者のチームが、厳密な実験結果に裏打ちされた画期的な新しい教材を無償で提供しても、マーケティング関連の予算や再投資してさらなる開発を進めるための資金がないため、教師の手元に届くことすらないのが現状です。
皮肉なことに、選択肢が多すぎることも、しばしばエビデンスに基づく製品にとって障害となり得ます。学校や学区の意思決定権者は、単にその量の多さに圧倒されてしまいます。その結果、意思決定権者は、実験に基づくエビデンスではなく、同業者からの体験に基づく推薦をもとに、新しい教材を採用するということがよくあるのです。
「そして、テクノロジー業界で『delight(喜び)』と呼ばれる、目に見えない要素もあります。これを使うと、快適であると感じられるかどうかということです」とFriedmanは付け加えました。このような目に見えない要素は、エビデンスに基づく製品が成功する一助となるかもしれません。しかし、その一方で、厳格な実験に基づく根拠はないが、魅力的に見える教材の欠点を覆い隠してしまうこともあります。例えば、ビジュアルデザインが巧みなものや、物語的要素に面白みがあるものは、学習成果としては最高の水準をもたらさないにもかかわらず、児童生徒から絶賛されてしまうことがあるのです。
LEARNネットワークの独自性
LEARNネットワークを特徴づける重要な知見は、エビデンスに基づく製品であっても、明確な普及戦略が欠けていれば成功しないということです。
LEARNネットワークを主導するにあたり、SRIは、画期的な発見・発明を研究室から市場へと導いてきたSRI自身の豊富な経験(Siriやロボット手術、そしてコンピュータのマウスからインターネットそのものに至るまで、あらゆる事例があります)を活かし、この原理を教育の分野にも応用することにしました。
SRIの「発明(Invent)‐適用(Apply)‐移行(Transition)」(IAT)フレームワークに基づいて、研修とコーチング、およびコラボレーションに関する活動を4つの製品チームと連携して推進しました。これらの活動は、各チームの普及能力を向上させただけでなく、SRIにとっても、エビデンスに基づく教材の普及戦略の評価や改善をさらに推し進めることができました。そしてその後、SRIはこれらを「LEARNから普及へのツールキット(LEARN to Scale Toolkit)」としてまとめ、オープンアクセスのライブラリ形式でケーススタディやブログ、ポッドキャスト、ウェビナーなどのリソースとして、全ての研究者や教材の開発者に対して無料で公開しました。
同時に、SRIは学校や学区の調達プロセスの現状に関する新たな研究を進め、その取り組みにはSRIの教育部門(Education Division)の指針である「研究としての厳密性」と「現場との関連性」を反映させました。「教材の開発者は、学校や学区ごとに調達の過程がいかに異なっているかについて、確固たるデータにアクセスできていなかったのです。このようなデータがなければ、効果的な普及戦略を策定することは非常に困難です」とFriedmanは述べています。そして現在は、SRIの研究から生まれたデータ・ダッシュボードがこの大きなギャップを埋めており、学術研究者や非営利の研究所が独自には入手できない市場データを提供しています。
研究から学習成果につながる道筋へ
LEARNネットワークによって明らかになった数多くの戦略や戦術の中で、最も根本的な知見は、教材の開発者が普及についてより慎重に考慮しなければならない、という単純なことなのかもしれません。
「普及を最終段階として扱ってはいけません。研究、設計、開発のプロセス全体に組み込まれなければならないのです。これこそ、私たちがツールキットで強調している点であり、私たちの取り組みから得られた核心的な知見でもあります。この知見が、今後も教育分野に影響を与え続けることを願っています」とFriedmanは強調しています。
SRIが取り組んでいる「業務や教育におけるイノベーション」について、さらに詳しくはこちらをご覧ください。
LEARNネットワークは、米国教育省教育科学研究所(Institute of Education Sciences)からのSRIインターナショナルへの助成金R305N220012を介して支援を受けています。ここに示した意見は著者個人のものであり、SRIや米国教育省の見解を代表するものではありません。


