
遠隔地での災害支援を迅速に拡大できる、必須栄養素を豊富に含んだ食品の開発に成功
遠隔地での軍事活動や災害支援、人道的支援活動では、十分な食糧を確保・輸送することが常に大きな課題となっています。このような場合、現在は米軍にて携行食・戦闘食糧として使用されているMeals Ready to Eat(MRE)や人道支援活動などに使われる栄養食品パッケージであるHumanitarian Daily Rationといった、あらかじめ工場で製造・加工・包装された食品に頼っており、輸送や保管に多くのリソースが必要です。しかし、SRIが主導するチームが、この状況を大きく変えるかもしれない新たな一歩を踏み出しました。携帯型の微生物ベースの食品生産システムを開発しており、近い将来、栄養価が高くて美味しい食料を現地で生産できるようになると考えています。
米国防高等研究計画局(DARPA: Defense Advanced Research Projects Agency)が運営するCornucopiaプログラムの一環として、SRIの研究者たちは、Air Protein社、Kiverdi社、Nitricity社などの協力会社を集めた強力なチームを結成しました。SRIの主任研究員でシニアケミカルエンジニアのElisabeth Pereaは、「このチームは、1日14人を1カ月以上食べさせられるだけの食糧を作れる、展開可能な食糧供給システムを開発しています」と述べています。
このプログラムの食品開発を担当しているAir Protein社とKiverdi社のチームは、炭水化物、脂肪、タンパク質、食物繊維の4大栄養素がすべて含まれ、かつ、ビタミンと微量栄養素全般も含有したプリンのサンプルを製造しました。「このプリンは見た目もかなり美味しそうですし、市販のプリンの食感に関する指標もすべて満たしています」とPereaは述べています。
「このチームは、1日14人を1カ月以上食べさせられるだけの食糧を作れる、展開可能な食糧供給システムを開発しているのです」―Elisabeth Perea
Food from Air for Distributed Rations(FADR)と呼ばれるこのプロジェクトでは、必須栄養素をすべて作るために、2段階の微生物を用いたバイオプロセスを採用しています。いずれのバイオプロセスも、Nitricity社が設計した革新的かつコンパクトなシステムを使って、空気とエネルギーだけを原料とする固定窒素を作ります。炭素は、排気ガスから回収された二酸化炭素から供給されますが、これは、SRIが数十年にわたり経験を積み重ねてきたカーボンキャプチャー技術の分野からヒントを得ています。バイオプロセスの第一段階は、Kiverdi社が設計し、Air Protein社が改良したAirFermentation™という画期的な炭素変換プロセスを使用します。このプロセスでは、水とエネルギーを使って水素と酸素を分離し、これらを二酸化炭素と固定窒素とともに微生物の餌として与え、タンパク質を豊富に含む培養物を生産させます。
最終的に出来上がる食品は、このタンパク質の一部を原料として利用し、残りはSRIが培養した微細藻類を餌とする第二段階に進みます。このプロセスは、炭水化物の生産を最大化するように設計されているのです。この藻類由来の炭水化物やその他の必須ビタミン類と栄養素をタンパク質と組み合わせて乾燥させると、栄養価の高い小麦粉のような粉末状になります。さらに、栄養素が余った場合は、再び第一段階へとリサイクルされる設計です。
「料理人は、この栄養面で完璧な粉末に味をつけて、さまざまな種類の食品に配合・アレンジすることができます。Air Protein社とKiverdi社で食品開発を手掛けている担当者は、プリンやジャーキータイプの食品開発に着目していますが、栄養価の高い粉末が手に入るようになれば、応用の幅はかなり広くなるでしょう」とPereaは述べています。
Kiverdi社の研究者たちは、栄養素の生成だけでなく、微生物を使って風味も作り出す実験を行いました。例をあげると、プリンのサンプルには、一部の微生物が生産するリモネンという成分のおかげで柑橘類の風味がついています。第二段階に差し掛かったこのプロジェクトに対して、DARPAは、さまざまな風味を後から加えれるようにニュートラルな(無味に近い)風味の食品ベースを求めています。このプロジェクトの一環として粉末食品の安全性を確保するため、Air Protein社の研究者たちは、プロセスや安全性試験の詳細、そしてサンプルをFDA(米食品医薬品局)に提出し、GRAS(Generally Recognized As Safe:一般に安全と認められている)ステータスの取得を目指しています。
栄養的に完璧なこの粉末がGRASステータスとして認められれば、このチームは実際に生産された食品で官能評価(味覚テスト)を実施する予定です。その間に、作った食品の味がニュートラルであることを確認すべく、Air Protein社は、臭覚分析ガスクロマトグラフィー(GC-O)という手法を用いて、食品サンプル中の個々の香り分子を分離して気化させ、訓練を受けた人に香りを嗅いでもらえるようにすることを計画しています。その後、チームは製造工程を調整して、「ニュートラルな風味」の実現を目指します。
「嗅覚と味覚の相関関係は非常に密接であることから、これは実際に食べて味見をすることなく風味を分析する定石です」とPereaは述べています。
SRIは、FADRのシステムを構成するすべての要素を統合し、できるだけ小型かつ効率的なものにしようとしています。そして、このシステムの最も大きい構成要素の1つであるプラスチック製の折り畳み式藻類バイオリアクターの設計にも取り組んでいます。このバイオリアクターは、空の状態で輸送して現地で展開して使用できるよう設計されています。最終的には、このシステム全体をコンパクトな軍用車両やコンテナの荷台に収まるようにする見込みであり、その外観は小規模な発酵工場と藻類養殖場と業務用キッチンを組み合わせたようなものになる予定です。
「私たちの目標は、最小限の材料を使って、遠隔地にいる人々に、必要な時に必要なだけ食料を供給することであり、かつ、廃棄物も出来るだけ最小化することです」とPereaは述べています。
このプロジェクトの詳細やSRIとの提携をご希望の場合は、こちらからお問い合わせください。
配布声明A:公的なリリースが承認されています。配布に制限はありません。
(Distribution Statement A: Approved for public release, distribution unlimited.)