SRIインターナショナルの「CMOSイメージ・センサー」を活用した太陽系探査

アメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げる惑星探査ミッションに、自分が構築した技術が搭載されていることを想像してみてください。わくわくするに違いありません。SRIインターナショナルのJim Janesickはその感覚をよく知っています。

画像1
画像提供:欧州宇宙機関(ESA: European Space Agency)

SRIインターナショナルのアドバンスド・イメージング・ラボ(Advanced Imaging lab)で主任研究科学者(Senior Principal Research Scientist)として20年の経験を持つJanesickは、かつてNASAの著名なジェット推進研究所(JPL: Jet Propulsion Laboratory)で22年間勤務していました。Janesickは、多くの宇宙空間でのイメージング・ミッションに使用されてきた電荷結合素子(CCD: Charge-Coupled Device)技術と相補型金属酸化膜半導体(CMOS: Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージング技術の有数の専門家です。

JanesickがSRIの「宇宙ミッション」に携わるに至る長い道のりの“きっかけ”となったのは、1973年に自家製の100×100ピクセルのCCDカメラと望遠鏡を使って「世界初の撮影」として広く認められている天体の固体状態のCCD画像を撮影したことでしょう。彼は自らを冗談交じりに「不器用なエンジニア」と言いますが、実際には彼はJPL在籍中にCCD技術の開発に重要な役割を果たしており、この技術はその後SRIで積極的に開発・追求された「CMOS技術」に進化したのです。

Janesickは、欧州宇宙機関(ESA)が2020年に打ち上げた太陽探査機ソーラー・オービター(Solar Orbiter)や、NASAが2018年に打ち上げたパーカー・ソーラー・プローブ(Parker Solar Probe)など、太陽の物理的な探査を行うために太陽を周回する観測衛星に搭載された「SRIの宇宙用CMOSイメージ・センサー」の設計者です。「長期間にわたる高度な開発の末、SRIのCMOSイメージ・センサーは、技術成熟度基準(TRL: Technology Readiness Level)のレベル6に到達しました」と、Janesickは言います。TRLは、NASAが技術の評価に使用する9段階の評価基準です。「TRL6に認定され、地上でのプロトタイプのデモンストレーションに成功したところで、当社のCMOSイメージ・センサーをソーラー・ヘリオスフィア・イメージャー(SoloHI: Solar and Heliospheric Imager)と呼ばれる機器に使用する許可をNASAから得ました。これにより、SoloHIと同じCMOSイメージング・センサーを使用するパーカー・ソーラー・プローブ用広角撮影装置(WISPR: Wide-Field Imager for Parker Solar Probe)も自動的にTRL6となりました。」

CCD技術は天文・惑星探査のミッションでよく使われますが、この技術は有害な放射線への耐性が低いとJanesickは説明します。「CCDカメラを十分に遮蔽する必要がありますが、そうすると全体のアプリケーションが重くなります。それが許容できない宇宙探査ミッションもあり、特に太陽軌道を飛行する場合はCCDを使用するには放射線レベルが高すぎます。NASAとESAがSRIのイメージ・センサーを選んだのは、太陽の強力な放射線環境に近距離で数年間耐えることが出来るよう設計・製造されているからです。このため、CMOSイメージ・センサーを使えば宇宙探査機が至近距離で太陽の画像を撮影することが可能となるのです」と、Janesickは言います。

画像2
画像提供:欧州宇宙機関(ESA)

Janesickによると、支援電子機器がイメージ・センサーと同じチップに設置できるということも、CCDと比較しCMOSが有利である点です。「SRIには技術があり、シリコンファウンドリがあり、カスタマーもいました。」と述べており、その結果、CCDカメラよりも遥かに軽量で使用電力も大幅に減少化した放射線耐性の強い部品を使った技術という驚異的な成果につながりました。さらに、宇宙望遠鏡用BK7ガラスと特殊な光反射板で作られた放射線耐性や砂塵耐性のあるレンズを搭載しているため、WISPRとSoloHIはかつて不可能であった“太陽の画像撮影”を可能にしました。

2020年6月9日、NASAのパーカー・ソーラー・プローブが太陽の表面からわずか1,160万マイルの距離を通過することに初めて成功しました。毎時約245,000マイルの飛行速度は、人工物としては最速です。パーカー・ソーラー・プローブは、7年間のミッションの間に、今後更に20回以上の太陽観測を行う予定です。そして最終の接近では、太陽の表面から400万マイルほどしか離れていない距離を飛行する見込みです。Janesickは、土星探査機カッシーニ(Cassini)などのこれまでの宇宙探査機同様に、パーカー・ソーラー・プローブの寿命は7年よりも大幅に長くなるという明確な可能性を感じています。

画像3
NASAのパーカー・ソーラー・プローブに搭載されたWISPR機器で処理されたデータはNEOWISE彗星の二つの尾をより鮮明に映し出しています。(画像提供:NASA、ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所、米国海軍研究所、パーカー・ソーラー・プローブ、Guillermo Stenborg)

パーカー・ソーラー・プローブとソーラー・オービターがそれぞれのミッションを遂行する中、Janesickもまた自身のミッションに取り組んでいます。最近では、今後実施されるSRIの2つのミッションを楽しみにしているといいます。それは、2024年の打ち上げが予定されている探査機エウロパ・クリッパー(Europa Clipper)と、同年打ち上げ予定の静止運用環境衛星(GOES-U)です。GOES(Geostationary Operational Environmental Satellite)は、コンパクト・コロナグラフ(CCOR: Compact Coronagraph)というソーラー機器を、またエウロパ・クリッパーはエウロパ・イメージング・システム(EIS: Europa Imaging System)という木星観測用の撮影装置を搭載する計画です。GOESは、SoloHIイメージ・センサーと同様のCMOSイメージ・センサーを使用します。また、エウロパ・クリッパーは、大規模飛行用に初めて認可されたCMOSイメージ・センサー(2k x 4kピクセル)を搭載する予定です。「私たちはこの製品を搭載する最適なフライトを選ぶために幅広い試験や選定プロセスを実施するのですが、エウロパ・クリッパーが現在その段階にあります」とJanesickは述べています。

YouTube player

科学の究極の目標は、生命を発見する可能性がより高い惑星又は衛星に行くことだとJanesickは言います。木星の衛星であるエウロパがこれに該当するかもしれません。エウロパには氷の層に覆われた深さ50マイルの海があるとの科学的コンセンサスがあるためです。「エウロパには、表面に水が達しているひび割れや裂け目があります。地球で生命が誕生したのは、深海の火山活動が活発な高温の領域であったと考えられているので、エウロパに同じ環境があるのであれば、生命が存在するかもしれません。」

エウロパから、さらにその先へ。今後CMOSイメージ・センサーは何を捉え、どのような謎を解き明かしてくれるのでしょうか。CMOSイメージ・センサー技術は、地球以外の天体に生命体が存在するのかどうかという、最も深い科学の謎への答えを得ることに寄与してくれるかもしれません。これは科学者にとって、そして「不器用なエンジニア」にとっても、是非とも答えを知りたい命題なのです。

参考文献:

1. Cassini’s Nuclear Heart. https://www.energy.gov/articles/nuclear-heart-cassini
2. SoloHi Mission: https://www.nrl.navy.mil/ssd/branches/7630/SoloHI
3. https://blogs.nasa.gov/parkersolarprobe/
4. https://www.nrl.navy.mil/ssd/branches/7630/SoloHI
5.https://www.nasa.gov/directorates/heo/scan/engineering/technology/txt_accordion1.html
6. https://www.thomasnet.com/articles/instruments-controls/systems-burn-in/
7. https://www.researchgate.net/scientific-contributions/2106088882_James_Janesick
8. https://www.goes-r.gov/featureStories/CCOR_feature.html


Read more from SRI