
SRIのイノベーション戦略・政策センターは、フリン財団と連携してアリゾナ州が国内のバイオサイエンス拠点へと変革を遂げる指針「バイオサイエンス・ロードマップ」を作成
バイオサイエンス産業は、イノベーション主導型経済の重要な要素です。ボストンからアブダビ、そして北京に至るまで、政府と産業界および学術界の連携により、科学が画期的な技術へと発展し、高度な技能を要する雇用を創出するとともに、健康に関する最終的な成果(アウトカム)を向上させています。
この成長産業を育成し、イノベーションが現実世界に影響を及ぼせるよう、アリゾナ州に拠点を置くFlinn Foundation(フリン財団)は2002年に州全体の戦略計画である「アリゾナ・バイオサイエンス・ロードマップ(Arizona Bioscience Roadmap)」を発表しました。そして、フリン財団はその後もこの実践に対し支援を提供してきました。しかし、当初のロードマップを2014年に改定したにもかかわらず、状況は大きく変化しています。機械学習は創薬に革命的な変化をもたらしており、ウェアラブルデバイスとデジタル医療は患者の体験を一変させました。また、グローバル競争は激化の一途をたどっており、民間投資と連邦政府の資金提供の双方において、優先順位の近年の変化は新たな不確実性をもたらしています。
「私たちはアリゾナ州に対し、バイオエコシステムの現状評価をサポートしただけでなく、この州が米国内のバイオサイエンス分野におけるリーダーとしての地位を固められるような、大胆かつ将来を見据えた戦略策定を支援しました」―Christiana McFarland
このような機会と変革の中、フリン財団は「2025~2030年アリゾナ州バイオサイエンス・ロードマップ(Arizona Bioscience Roadmap 2025–2030)」の策定をSRIに依頼しました。この新たなロードマップは、新しいテクノロジーや資金調達のトレンド、そしてアリゾナ州の驚異的な成長を踏まえた、同州の戦略を全般的に刷新するものとなりました。
SRIのCenter for Innovation Strategy and Policy(CISP:イノベーション戦略・政策センター)のエグゼクティブディレクターであるChristiana McFarlandは「私たちはアリゾナ州に対し、バイオエコシステムの現状評価をサポートしただけでなく、この州が米国内のバイオサイエンス分野におけるリーダーとしての地位を固められるような、大胆かつ将来を見据えた戦略策定を支援しました」と述べました。CISPは、科学技術や熟練技能者への投資が経済と社会に及ぼす長期的な影響を加速させるべく、様々な組織、地域、および国々と連携しています。
バイオサイエンス関連のイノベーションの基盤を強固に
アリゾナ州は、バイオサイエンスに関するイノベーションの分野に新しく参入したわけではありません。医療機器や製薬、農業、産業バイオサイエンス、医療関連の研究室などの分野において、同州全体で14万4000人を超える人々が雇用されています。主要大学からは継続的に人材が輩出されていいて、アリゾナ大学は生物医学(biomedicine)、アリゾナ州立大学はバイオエンジニアリングとコンピューティング、ノーザンアリゾナ大学(北アリゾナ大学)は病原体ゲノム解析と地域との連携研究に取り組んでいます。施設や設備の多くはフェニックス(Phoenix)周辺に集中していますが、フラッグスタッフ(Flagstaff)にあるMoonshot Arizona(ムーンショット・アリゾナ)やツーソン(Tucson)にあるCritical Path InstituteのTranslational Therapeutics Accelerator(クリティカル・パス研究所のトランスレーショナル・セラピューティクス・アクセラレーター)、Yuma Center for Excellence in Desert Agriculture(ユマ砂漠農業卓越センター)など、フェニックス以外の地域でも取り組みがあることがアリゾナ州のバイオサイエンス関連施設の多様性を示しています。
アリゾナ州の人材育成システムは商業的にも成功をみせています。同州内にあるバイオサイエンス系の複数のスタートアップ企業が2019年から2023年にかけて調達したベンチャーキャピタルは11億ドルにのぼり、雇用面ではバイオサイエンス関連の伸びが他の産業を大きく上回っています。
この勢いを維持すべく、この新たなロードマップでは、商業化へのボトルネックや人材不足、資金調達へのアクセスといった、残存する課題の特定に焦点を当てています。また、研究内容の現実世界(リアルワールド)への実装によるインパクト創出、教育と産業の連携強化、バイオサイエンスとAI・半導体・防衛産業などの隣接分野との統合のための、実践的な戦略を提示しています。
SRIのこのプロジェクトを率いたCISPのプロジェクトリーダーであるDylan Soldenは次のように述べています。「世界のバイオサイエンス産業全体に広がる不確実性は深刻であることから、今後5年間アリゾナ州を導けるよう、可能な限り最善の態勢を整えたかったのです」
今後の道筋を見極める
アリゾナ州におけるバイオサイエンスのイノベーションに関する現状をあらゆる視点から把握すべく、SRIのチームは包括的なイノベーション・エコシステム評価を実施しました。つまり、新しいイノベーションの指標(出版物、特許、商標、スタートアップ設立など)を分析し、データ駆動型の人材・労働力分析を組み込み、この州が達成した成果を比較対象となる他州のエコシステムと比べて評価しています。
このチームはまた、アリゾナ州全体で数百件の面談や少人数参加者によるテーマ別グループ討議、リサーチを実施して広範なフィードバックを収集しており、このロードマップが、データで特定したギャップに対応するだけでなく、同州のバイオサイエンスコミュニティの実情と優先事項を反映するようにしています。これらの意見がこのロードマップの戦略的な枠組みを形成しているのです。
SRIにとって明らかに有利だったのは、CISPチームがSRIのバイオサイエンス部門の同僚たちと協力して、現場にいるバイオサイエンスのイノベーターたちが新たな芽を見出している実態を肌で感じられたことであるとSoldenは指摘しています。「バイオサイエンス部門の同僚たちが強調したのは、『プラグアンドプレイ(plug-and-play)』モデルの重要性でした。革新的な研究を行っている研究者たちは、商業化のネットワークにアクセスしやすい必要があります。そうでなければ、有望な研究であっても研究室から外に出る時が永遠にやってこないかもしれません」とSoldenは述べています。そのために、この報告書では、州全体をカバーするポータルサイトを構築して大学の知的財産(IP)にアクセスできるようにしたり、Arizona Bioscience Commercialization Network(アリゾナ州バイオサイエンス商業化ネットワーク)を構築して州内のバイオサイエンス関連の研究者や起業家を支援したりすることが提言されています。
報告書の提言としては、地域の専門性とニーズに見合った州全体にわたるバイオサイエンス・インキュベーターネットワークの構築や投資基盤の多様化、バイオサイエンス関連人材のコンシェルジュを設置して、研究・臨床・起業・ビジネスに関する人材の触媒となり採用や定着を目指すこと、また、一貫性のある広報計画を策定してアリゾナ州のバイオサイエンスに関する活動をアピールすることなども含まれています。
アリゾナ州におけるバイオサイエンスの未来
このロードマップの影響がすべて明らかになるのは2030年、もしくはそれ以降となるかもしれませんが、SRIのチームは、現在アリゾナ州にあるバイオサイエンス関連の資産を守りつつ、さらなる進展を遂げることで、この州が勢いを維持し、競争が激化するバイオサイエンス業界の主導権争いにてチャンスを逃さないような態勢を整えられるだろうと自負しています。
「このロードマップに自信を持てる最大の理由は、研究者や起業家、政策立案者などエコシステムの全体に関わる人々が、ロードマップに自分たちの役割が反映されていると感じているという声を聞けたことです。こうした連携が、共通のオーナーシップを築き、アリゾナ州のバイオサイエンスの未来を強化するために必要な勢いを生み出すのです。」とMcFarlandは述べています。
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